後藤健生の「蹴球放浪記」第113回「政治的台風に押しつぶされたW杯予選」の巻(2)試合が中止になった本当の理由の画像
スタジアムからの帰途、筆者が遭遇したデモ隊 提供/後藤健生

 サッカージャーナリスト・後藤健生は1989年、香港にいた。イタリア・ワールドカップ予選取材のためだが、試合は「吹き飛ばされた」。台風と、それにも勝るとも劣らない嵐が吹き荒れていたのだ。

■台風が過ぎても試合は中止

 5月21日(試合当日)の午前0時、台風警報は「凸3」に戻りました。

 5月21日の朝、窓の外を見ると雨は激しく降り続いているものの、風は収まりました。そして、警報(シグナル)は午前9時に全面解除となりました。どうやら、試合はできそうです……。

 ところが、「試合はやはり中止」という情報が入ってきました。「韓国人審判団の乗った飛行機が台風のために着陸できなかった」というのです。

 たしかに、着陸できなかった飛行機は多かったようで、後から聞くと土曜日に到着予定の日本人サポーターたちが乗った飛行機でも、強行着陸した便もあれば、成田空港に引き返した便もあったようです(最終的に着陸するかどうかは機長の判断です)。

 試合が中止になったのには、別の理由もあったようです。

 試合と同じ5月21日の日曜日に、北京の学生たちを支援する「百万人デモ」が計画されていたからです。そして、その百万デモは政府大球場から近いビクトリア・パークを出発することになっていました。

 そんな大規模なデモとサッカーの試合が重なってしまっては警備が不可能になってしまいます。

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