■山下主審の飛び抜けた能力

 最初にお断りしておくが、私は山下主審とは10年以上の「つきあい」がある。大学を卒業した後、彼女は「選手」として私が監督を務める女子チームにはいってきて、以後中心選手として活躍してくれていたのだ。最初に練習にきた日から、彼女は飛び抜けた能力を見せた。長身で高い技術があり、何よりも、どんな瞬間にも落ち着きを失わないメンタリティーが目についた。穏やかさと明るさを兼ね備えた人柄もあり、あっという間にチームにとけ込み、中心選手となった。

 彼女は、練習にきた初日に「私は審判員を目指している」と話した。大学時代の先輩に引っぱられて審判資格を取り、すでに3級の資格をもっていた。JFAの審判員には4つの等級があり、4級は「見習い」といったところで、3級になると都道府県レベルの大会で主審を務めることができる。そして2級は地域レベルの大会、1級は全国レベルの大会での主審能力の認定ということになっている。サッカーで見せる心身両面の資質から、彼女が日本のトップクラスの女性審判員になるのは間違いないと思った。

 予想どおり、すぐに彼女は2級になり、チームにはいって4年後の2012年には「女子1級」となった。この等級は日本独自のもので、女子の全国規模の大会(なでしこリーグや皇后杯全日本選手権など)をできるだけ女性審判員に担当させたいと生まれたものである。フィジカルテストの基準が「1級」よりややゆるめられているが、国際的にも活動することができ、2015年にはFIFAの国際主審となった。

PHOTO GALLERY ■【写真】背番号やポジションは? 現在とは印象が違う選手時代の山下主審の貴重なショット
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