サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、ワールドカップの審判が男女同数になる未来―。
■アジアから世界へ
社会的・文化的につくられる性別である「ジェンダー」による不平等が、現在の世界がかかえる重要な課題のひとつであることが大きく取り上げられ、さまざまな分野で急激にその差別が解消されているいま、FIFAワールドカップの審判員に女性が加えられたことに驚くのは、まったくの「時代遅れ」に違いない。
だが私の驚きの大きな部分が、選ばれた6人の女性審判員に日本の山下良美主審がはいっていることであることは、理解してもらえるのではないか。山下主審は2019年にAFCカップ(AFCチャンピオンズリーグ=ACLに次ぐアジアのクラブ大会)、そしてことし4月にはACLで主審を務めた。いずれもアジアで最初の快挙であり、アジア・ナンバーワンの女性主審であることは間違いない。
しかし日本国内では、昨年女性で初めてJリーグ担当審判員となり、これまでのところ、J3で昨年8試合、ことし2試合の主審を務めたキャリアしかない。もちろん、山下主審は日本サッカー協会(JFA)と契約するプロレフェリー(2022年には主審13人、副審4人)ではない。他に仕事をもちながら審判活動をしている。
山下主審に力がないと言っているのではない。しかしFIFA女子ワールドカップやオリンピックで堂々たる主審ぶりを見せてきたとはいえ、日本のトップリーグでの経験がなく、女性の大会では、アジアサッカー連盟(AFC)のプロレベルの男性の試合をコンスタントにこなしてきたわけでもない主審が、いきなりワールドカップの主審に選ばれたことに、驚くとともに、ややとまどいを感じたのは、正直なところだった。