ブラジルと言えば、サッカー王国として知られる。今年開催されるワールドカップでも、優勝候補に挙げられる。その強国の歴史でも、今回のセレソンは最強かもしれない。サッカージャーナリスト・大住良之が、ブラジル代表を解析する。
■チッチが見せた人間性
このブラジルは「史上最強」だろうか。チームとしての守備、守備陣の能力は、間違いなく「最強」だ。そして攻撃陣も、才能としては過去に高い評価を受けた2つのブラジル代表(1970年メキシコ大会と1982年スペイン大会)と比較しても遜色がない。その攻守を、規律あるプレーを要求しつつ、王のように君臨するのではなく、選手たちへの深い愛情を見せるチッチ監督が結びつけている。
2017年11月に日本代表がフランスのリールでブラジル代表と親善試合(日本1-3ブラジル)を行ったとき、私はチッチ監督の深い人間性を見た思いがした。当時ネイマールはさまざまなことでメディアから批判されていたのだが、先制点を挙げたことでチッチ監督とともに試合後の記者会見に出てきた。しかし容赦のないブラジルや欧州の記者が、続けざまにネイマールに試合とは無関係な辛辣な質問を浴びせ、ネイマールは苦境に立たされた。
チッチ監督が助け舟を出したのはそのときだった。「私はネイマールがどんな人間か誰よりもよく知っている。そして彼という人間を信頼している」。隣に座るネイマールの肩を抱きながらそう話すと、ネイマールは目頭を熱くした。