大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第83回「サッカー監督たちの見果てぬ夢」(4)天才ヨハン・クライフの「タイミングの感覚」なくして「本物」への昇華なしの画像
やはりクライフなくしてトータルフットボールは完成しない 撮影:原悦生

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、サッカージャーナリスト大住良之の「超マニアックコラム」。今回は、「トータルフットボールの父」について。

■南米の「ラ・マキナ」

 欧州だけではない。南米にも、ポジションを自在に変え、どんな試合でも相手の守備をズタズタに切り裂いてしまうチームがあった。アルゼンチンのリバープレート、1940年代のチームである。レナト・セサリーニ監督の下、フアン・カルロス・ムニョス、ホセ・マヌエル・モレノ、アドルフォ・ペデルネラ、アンヘル・ラブルーナ、フェリックス・ロウスタウといった選手たちが流れるようにポジションを入れ替えて破壊的な攻撃を見せた。この攻撃陣は、「ラ・マキナ(機械)」と呼ばれて恐れられた。

 1974年ワールドカップでオランダが世界に衝撃を与え、「トータルフットボール」の名が喧伝されたとき、世界中の指導者の多くがその「源流」を頭に描いた。だが戦前の「無敵のチーム」たちは攻撃面の奔放さはあったものの守備面で強烈なプレスがあったわけではなく、戦後各国で驚きを巻き起こしたチームの多くは強烈なプレッシングだけが売り物で、攻撃時の驚きが大きかったとは言えない。

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