1978年のアルゼンチン大会、クライフを欠いたオランダだったが、前回の選手たちの多くが残り、強化されたポジションもあった。そして着実に勝ち上がっていった。しかしそのサッカーは無骨そのもの。強烈なプレッシングも、ポジションにとらわれない攻撃参加も迫力十分だったが、そこには流れるような美しさはなかった。クライフという「オーガナイザー」を欠いたオランダは、もはや世界が憧れる存在ではなくなっていた。

■人々が追う見果てぬ夢

 それから半世紀近くの時間が経ても、世界のサッカー人の多くが「トータルフットボール」にあこがれ、その再現を夢見ている。それはワールドカップで優勝を争うクラスだけでなく、日本代表の森保一監督も、Jリーグの監督たちも同じだ。それぞれのチームのなかでさまざまにチャレンジしている。

 1990年代のACミラン、2010年代はじめまでのFCバルセロナなど、限りなくその域に近づき、時代を席巻した例もある。しかし短いそのピークが過ぎると、人びとは再び「1974年のオランダ」を語り始める。

 才能ある選手たちを鍛え、戦術を理解させるだけでは足りないことはわかっている。ヨハン・クライフのような、すべての「時間」を支配できる天才なくては、「トータルフットボール」が実現しないことも、いまでは誰もが知っている。それでも人びとは「トータルフットボール」を夢見る。「見果てぬ夢Impossible Dream」を見続ける。

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