■W杯優勝キャプテンの嘆き

 1982年大会の少し後に、1966年大会優勝イングランドのキャプテンだったボビー・ムーアにインタビューする機会があった。82年大会の感想を聞いたときの彼の言葉は、いまも耳に残っている。

「1960年代には、サッカーはあくまでも『スポーツ』でした。世界的な名声とか、熱狂的なファンなどはもちろんいましたが、フィールドに出れば、選手たちはスポーツマン対スポーツマンとして競うことができました。しかし今日、サッカーは『ビッグビジネス』になってしまいました。莫大なカネがすべてを支配し、それが大きなプレッシャーとなっています。選手も監督もコーチも、そのプレッシャーを受けて、自分が本当にやりたいことをできなくなっています」

 イングランド・サッカー史上屈指の人格者と言われたボビー・ムーアの繊細な感性は、ワールドカップの歴史の転換点を的確にとらえていた。そしてここから、ワールドカップはテレビとスポンサーのための、すなわちFIFAがカネ儲けをするための大会へと突っ走っていく。自らの「死」に向かって…。

(4)へ続く
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