後藤健生の「蹴球放浪記」連載第78回「小悪人とハサミは使いよう」の巻(2) 「郷に入っては郷に従え。『ディアス氏』となりてW杯予選を見る」の画像
確かにチケットには「ディアス」氏の名が… 写真提供/後藤健生

サッカーは国や地域ごとにプレースタイルの違いが出てくるものだ。観戦にも、「スタイル」は存在する。蹴球放浪家・後藤健生は、その対応もぬかりない。今回は、南米サッカーを生き抜く術を伝える。

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 さて、ホテルに荷物だけ置いてスタジアムに駆け付けましたが、案の定、周囲はごった返していました。報道受付のことなど知っている人は誰もいません(「取材に来るような人は、予め知っているはず」ということです)。

 そこで、僕はダフ屋を探して、チケットを買いました。

 よく分からないので一番安いチケットを買ったんですが、これは北側ゴール裏の大衆席でした。入場するとすぐに徹底的な身体検査をされます。それもそのはず、階段下には没収されたナイフなどの武器類がうず高く積み上げられていました。そして、階段を昇って行ったのですが、大衆席はもう立錐の余地もない状態で大騒ぎが始まっていました。

 どうやら、外国人が立ち入るべき場所ではないような気もしましたし、少なくとも試合なんて見ていられる状況ではなさそうでしたので、この安いチケットは無駄になってしまいますが、チケットを買い直しました。今度はメインスタンドの中段の見やすい席でした。

 しかし、僕がそこに座っていると、周りの観客が「なんだ、いつから日本人になったのだ」とか、いろいろ声をかけてきます。

 なんのことだかよく分かりませんでしたが、試合が終わってからチケットの券面を見ると、手書きで「エミリオ・ディアス・デ・ビバル」と名前が書いてあります。

 どうやら、シーズンチケットのようなもので、僕が座った席はディアス氏のものだったようです。だから、周囲の人はみな、ディアス氏のことを知っていて、そこに見慣れない東洋人が座っていたので何か言ってからかったのでしょう。

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