■ゴールの大きさを変えようとした男
1996年、当時まだ国際サッカー連盟(FIFA)の事務総長だったゼップ・ブラッター(1998年~2015年会長)がドイツの雑誌のインタビューに応え、「ゴールの幅をボール2個分(約45センチ)、高さをボール1個分大きくすることにする」という考えを表明した。ゴールの大きさが決められた19世紀の半ば当時の英国の成年男子の平均身長は、20世紀末のプレミアリーグのGKの平均身長(約190センチ)より30センチも低かったからと、彼はルール改正の必要性を力説した。
だがこのルール改正案は本決まりになることはなかった。少し考えてみればわかる。サッカーは世界の隅々にまで浸透した「人類のスポーツ」であり、世界中にはおそらく数百万対ものサッカーゴールがある。ルール改正でゴールを大きくしたら、その多くを廃棄し、新しくつくり直さなければならない。そんなことは不可能に近い。
ちなみに、日本でゴール一対を購入するのにどれくらいかかるか見当がつくだろうか。もちろん「ピンキリ」だが、「ピン」は埼玉スタジアムなど第一級の競技場で使われている「埋め込み式」で、1対で100万円以上する。しかもゴールを安全に設置するための地下構造の造作費は別である。工事まですべて含めると400万円にもなるという。そして簡易式のゴールを除き、一般の競技場や学校のグラウンドに設置する「据え置き型」(背後に支えの構造がついているもの)でも、一対で数十万円はする。おいそれと取り替えられるものではないのである。