ワールドカップ決勝でのゴール「天才ストライカーの記憶」【追悼ゲルト・ミュラー】(1)の画像
1974年の西ドイツ対オランダ 決勝ゴールを決めた西ドイツの背番号13番ゲルト・ミュラー 写真:Colorsport/アフロ

 デア・ボンバー(爆撃機)の異名を持ち、リトルゴールを量産した1970年代を代表する西ドイツのストライカー。70年ワールドカップ・メキシコ大会は得点王、74年西ドイツ大会では、ヨハン・クライフ率いるオランダと決勝で激突し、オランダのゴールに突き刺した決勝点ゴールでそのプレースタイルを世界中に知らしめた。長く所属したバイエルン・ミュンヘンで記録した、ブンデスリーガ通算365ゴールは永遠に破られることはない大記録だ。その、ゲルト・ミュラーが75歳で亡くなった。ゴール裏で目撃した、歴史的ゴールの記憶が蘇る——。

■塔上に住みついたネルトリンゲンのネコ」

 NHKのBSで放映している『岩合光昭の世界ネコ歩き』という番組をご存じだろうか?

 動物写真家の岩合光昭氏が世界各地で飼いネコを撮影した映像を延々と見せる番組だ。飼い主や近隣の人々との交流を通じて、各国の文化や美しい風景も紹介されるのだが、主役はあくまでもネコ。ネコ好きが見るのだろうか、もう10年近くも放映されている長寿番組である。

 8月17日火曜日の夜、僕は何とはなしにこの番組を眺めていた。

 最近は海外取材も難しいのだろう。この日は、過去の映像を再編集した番組でヨーロッパ各地のネコたちが紹介されていた。フランス・ブルゴーニュのブドウ畑のネコとか、イタリア・トスカーナのネコとか、風景がとても美しかった。

 そのエピソードの一つとして、ドイツ・バイエルン州の小都市ネルトリンゲンのネコが紹介されており、街の中心にある教会に立つ塔の上に住みついているネコが、訪れる観光客を歓待する様子などが映し出されていた。

 僕は、“偶然”に驚かされた。ちょうど前日に西ドイツが生んだ名ストライカー、ゲルト・ミュラーの訃報に接していたからだ(死去は8月15日)。

 アルツハイマー病に冒されていたということは聞いていたが、いずれにしても75歳での逝去は早すぎるものだったと言っていい。認知症に冒されたミュラーは、彼の輝かしいキャリアも数々の得点もすべて記憶から消えてしまっていたのだという。肉体を蝕む病気が人間に対して大きな脅威になることを最近痛感するが、精神を冒す病というのも実に恐ろしいものである。

 そのゲルト・ミュラーはネルトリンゲンの出身だったのだ。それで、僕は彼の訃報を聞いた翌日にテレビの画面でネルトリンゲンの風景を見るという偶然に驚いたというわけなのである。

 ミュンヘンから北西に直線距離で約120キロにある人口2万人の小都市ネルトリンゲンは、いわゆる「ロマンティック街道」に含まれる観光地だ。「ロマンティック街道」というのはバイエルン州のヴュルツブルクからフュッセンまで、有名なローテンブルク・アプ・デア・タウベルやディンケルシュビュールなど、いくつもの美しい小都市を南北に結んだ観光ルートのことだ。

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