■遠藤と田中にあった、頭が疲れている時に起こりやすいボールロスト

 サッカーは個人競技ではなく、チームスポーツです。ピッチには1チーム11人ずつがいて、合計22人で戦うものです。

 そういう意味で、今回の日本は属人的なところがあると思いました。期待された選手が活躍すれば勝つし、活躍しなければ勝てない。けれど、他のチームはどうか。中心選手はもちろんいますが、その選手が勝敗のすべてを背負うような形は取ってないはずです。

 たとえば、メキシコが日本に負けたとします。誰かが期待どおりの働きをできなかったという論調も、もちろんあるかもしれませんが、それ以上に「誰かが」ではなく「チーム全体で負けた」というとらえかたになると思います。

 選手なので責任を背負うのは当然だと思いますし、そのプレッシャーに打ち勝ってこその代表選手だと言われれば、そうかもしれません。ただ、そこまで個人が背負うものなのか、周りも背負わせるべきなのか──。久保建英はそういった思いの強さから得点に結びついたトライをし、自分の出来で勝敗が決まったと自らに敗因の矢印を向けました。スペイン戦とメキシコ戦後のコメント、それにメキシコ戦後の涙には、考えさせられるところが大いにありました。 

 準決勝のレビューで、「3位決定戦はメンタルが大事になる」と書きました。実際にメンタルはこの試合の大きなポイントでしたが、ピッチ上にはそれだけで片づけけられない技術、戦術の差もありました。

 どうやって攻めるのか、どうやって守るのか。それはチームとして共有するべきものですが、メキシコは個人戦術としても落とし込まれていました。メキシコの選手は一人ひとりが日本の出かたを見て判断をしながら、相手を見ながら変えられるのです。

 これまでの対戦相手と同じように、メキシコも日本攻略の常套手段を取ってきました。ボールの供給源でありゲームのリズムを作り出すダブルボランチの遠藤航田中碧を、インサイドハーフが消してきたのです。

 遠藤も田中も、もちろん頑張っていました。ただ、身体はもちろん頭も疲れていたのは、彼らのプレーを見れば明白でした。前半からいつもなら止まるボールが止まらず、足元からこぼれて相手に献上してしまうシーンが見られました。こういうプレーは、身体だけでなく頭もかなり疲れている時に起こりやすいのです。

 それだけ頭が疲れていると、彼ら本来の役割を果たせないのも無理はありません。ハイプレッシャーを受けながら相手の対策をどうやって上回るのか、勝ち筋を見出すのか、ということができなかったとしても、責めることはできなかったでしょう。

(構成/戸塚啓)

【後編へ】

なかむら・けんご  1980年10月31日東京都生まれ。中央大学を卒業後03年に川崎フロンターレに入団。以来18年間川崎一筋でプレーし「川崎のバンディエラ」の尊称で親しまれ、20年シーズンをもって現役を引退した。17年のリーグ初優勝に始まり、18年、20年に3度のリーグ優勝、さらに19年のJリーグYBCルヴァンカップ、20年の天皇杯優勝とチームとともに、その歴史に名を刻んだ。また8度のベストイレブン、JリーグMVP(16年)にも輝いた。現在は、育成年代への指導や解説活動等を通じて、サッカー界の発展に精力を注いでいる。

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