■ショッキングだった日産スタジアムの映像
今夏のオリンピックで、最もショックだったのは、横浜の「日産スタジアム(横浜国際総合スタジアム)」の映像だった。日産スタジアムは今大会のサッカーの主要会場のひとつで、男子決勝戦まで12試合に使われた。しかし試合前やハーフタイムのテレビ中継にゴール裏に近いコーナーのスタンドからの全景映像が映し出されたとき、私はぞっとする思いがした。まるで「廃虚」だったのだ。
日産スタジアムは1998年3月にこけら落としの試合が行われた。この年の神奈川国体に向けて始められた建設計画は、ワールドカップの日本招致活動のなかで「決勝戦を行う7万人規模のスタジアム」となり、建設費も600億円を超した。そして目論見どおり、6万3700人収容の埼玉スタジアムを退け、2002年ワールドカップの決勝戦会場に選ばれた。その後も、横浜F・マリノスが使うだけでなく、日本代表戦にも使われ、埼玉スタジアムと並ぶ関東の主要スタジアムとなっている。
だが2階席はともかく、1階席からサッカーの試合を見るのは非常につらい。陸上トラックのせいでピッチから非常に遠いだけでなく、傾斜が緩いためだ。Jリーグで使われるときのようにトラック上にも人工芝が敷き詰められる(それも不思議な光景だが)のではなく、アンツーカー色のトラックがむき出しになったオリンピックでの映像は、1990年ワールドカップで使われたイタリアの競技場を想起させた。
日産スタジアムは「23歳」。私の説によれば、まだ「賞味期限」を迎えていない。だが、普段このスタジアムで取材していても別に古いとは感じないものの、確実に「時代遅れ」になりつつある。少なくとも、これからの時代に、安くない入場料を取ってサッカーの試合を見せるスタジアムではない。
スタジアム建設計画のときに誰もけっして口にしないのが、「何年使えるのか」という話である。たぶん、そんな恐ろしいことを誰も言い出せないのだろう。だから冒頭の建設技師のように「百年スタジアム」などという空想が生まれるのだ。