スタジアムの「賞味期限」(3)建設計画の時に「誰もけっして口にしないこと」の画像
新国立競技場 撮影/編集部
ここぞという試合では奮発して、いい席で見たいなんていう日もある。ところが、財布の底をはたいて買ったシートなのにプレーヤーの背番号もはっきりと識別できないというのでは、涙も出やしない。サッカー専用スタジアムが増えているとはいえ、まだまだ見づらいところも多い。その原因の大部分は、サッカーを見ない人たちがつくっているからなのだろう。そして、いつもと違うスタジアムに遠征すると、いままでは「誇り」であった地元のスタジアムが、もう「時代遅れ」であることに気づくこともある。スタジアムにも「賞味期限」がある。サッカー取材歴50年以上のベテランジャーナリスト・大住良之が語る。
第2回はこちらから

■新スタジアムの建設で世界一観客の多いリーグに

 1974年のワールドカップ西ドイツ大会は、出場16チーム、9都市の9スタジアムが舞台となった。サッカー専用だったのは前述のドルトムントだけ。他の8スタジアムはすべて陸上競技場だった。そのなかで最も新しかったのはミュンヘンのオリンピック・スタジアムで、1972年オリンピックのために建設された。ワールドカップ招致時点ではまだ30年も経っていないスタジアムである。それを「時代遅れ」として新しいスタジアムで次のワールドカップを迎えるというのである。

 イングランドを中心に吹き荒れたフーリガンの影響で、1990年代のはじめ、欧州のプロサッカーは観客数が激減し、危機に瀕していた。旧式の陸上競技型のスタジアムでは、ピッチとの距離が遠く、プレーを百パーセント楽しむことができない。しかも大部分が屋根のない状態で雨や雪に耐えてサッカーを見るという時代ではなくなっていた。そこで各国が推進し始めたのが、快適で観戦しやすい総屋根のサッカー専用スタジアムの建設だった。ブンデスリーガもその必要に迫られていた。それを一挙に解決できるのが、ワールドカップの招致だった。

 2006年のワールドカップは32年前の大会と比較すると巨大化し、出場は倍の32チーム。そのために12都市の12スタジアムが用意された。しかしそのうち陸上競技場形式はわずか3スタジアム。ベルリン、シュツットガルト、ニュルンベルクだけだった(シュツットガルトはその後改装されてサッカー専用スタジアムとなった)。バイエルン・ミュンヘンがミュンヘンにまったく新しい「アリアンツ・アレーナ」を建設したのをはじめ、9スタジアムがサッカー観戦を心から楽しむことができる近代的なサッカー専用スタジアムになっていたのである。

 そしてベッケンバウアーの狙いどおり、ワールドカップ後のシーズンからブンデスリーガはほとんどの試合が満員になる人気を博し、その後のさらなる新スタジアム建設もあって、現在世界で最も観客の多いリーグ(2013~18の5シーズン平均で1試合平均4万3302人)となっている。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4