スタジアムの「賞味期限」(2) W杯招致委員長・ベッケンバウアーの「正直すぎる言葉」の画像
新国立競技場 撮影/編集部
ここぞという試合では奮発して、いい席で見たいなんていう日もある。ところが、財布の底をはたいて買ったシートなのにプレーヤーの背番号もはっきりと識別できないというのでは、涙も出やしない。サッカー専用スタジアムが増えているとはいえ、まだまだ見づらいところも多い。その原因の大部分は、サッカーを見ない人たちがつくっているからなのだろう。そして、いつもと違うスタジアムに遠征すると、いままでは「誇り」であった地元のスタジアムが、もう「時代遅れ」であることに気づくこともある。スタジアムにも「賞味期限」がある。サッカー取材歴50年以上のベテランジャーナリスト・大住良之が語る。
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浦和レッズよりもショッピングセンターを

 当時の埼玉県知事は土屋義彦さんだった。スタジアムの計画から完成までの時期、ずっとその職にあった人だ。会議には、予想どおり、電通のプランナーや、さまざまな立場の人がきていて、さまざまな利用方法を提案した。「展示会場にしたらいい」「巨大ショッピングセンターをつくるべきだ」……。

 私はこんな話をした。

「埼玉スタジアムはサッカースタジアムです。さいたま市(2001年に浦和市、大宮市、与野市が合併してさいたま市が生まれていた)には、浦和レッズと大宮アルディージャ(当時J2)という2つのプロサッカークラブがあります。その両クラブが交互に使えば年間40試合以上できます。100万人集めることは十分可能です。毎年100万人がここに集い、地元のクラブを応援し、そこで幸福な時間が過ごせるなら、年間数億円の維持費がかかろうと、埼玉県としては価値のあるものではないですか。そしてもちろん、100万人はいったら、スタジアムとしても収益が出る可能性は十分あると思いますよ」

 スタジアムの多様な使用法を考えようという会議で、「サッカーだけやっていればいい」というのは、身もふたもない話だった。だが、当時、浦和レッズは年間4試合程度しか埼スタを使っていなかった。大半の試合を埼スタの3分の1しか収容力のない駒場スタジアムで開催していたのだ。聞くと、使用料が高いうえに諸施設の使用に多くの制約があり、プロの興行をするのに不都合が多いのが理由ということだった。サッカー外のイベントをあれこれ考えるより、そうした制約を取っ払い、まずは浦和レッズに使ってもらうことが先決だと話したのだ。当然、私の話は他の業界からの出席者を不愉快にさせた。

 この会議はすぐに消滅してしまい、やがて浦和レッズがホームゲームの大半を埼スタで開催するようになり、しかも1試合平均4万5000人などという世界レベルの観客を集めるようになると、誰も何も言わなくなった。

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