■浦和レッズよりもショッピングセンターを
当時の埼玉県知事は土屋義彦さんだった。スタジアムの計画から完成までの時期、ずっとその職にあった人だ。会議には、予想どおり、電通のプランナーや、さまざまな立場の人がきていて、さまざまな利用方法を提案した。「展示会場にしたらいい」「巨大ショッピングセンターをつくるべきだ」……。
私はこんな話をした。
「埼玉スタジアムはサッカースタジアムです。さいたま市(2001年に浦和市、大宮市、与野市が合併してさいたま市が生まれていた)には、浦和レッズと大宮アルディージャ(当時J2)という2つのプロサッカークラブがあります。その両クラブが交互に使えば年間40試合以上できます。100万人集めることは十分可能です。毎年100万人がここに集い、地元のクラブを応援し、そこで幸福な時間が過ごせるなら、年間数億円の維持費がかかろうと、埼玉県としては価値のあるものではないですか。そしてもちろん、100万人はいったら、スタジアムとしても収益が出る可能性は十分あると思いますよ」
スタジアムの多様な使用法を考えようという会議で、「サッカーだけやっていればいい」というのは、身もふたもない話だった。だが、当時、浦和レッズは年間4試合程度しか埼スタを使っていなかった。大半の試合を埼スタの3分の1しか収容力のない駒場スタジアムで開催していたのだ。聞くと、使用料が高いうえに諸施設の使用に多くの制約があり、プロの興行をするのに不都合が多いのが理由ということだった。サッカー外のイベントをあれこれ考えるより、そうした制約を取っ払い、まずは浦和レッズに使ってもらうことが先決だと話したのだ。当然、私の話は他の業界からの出席者を不愉快にさせた。
この会議はすぐに消滅してしまい、やがて浦和レッズがホームゲームの大半を埼スタで開催するようになり、しかも1試合平均4万5000人などという世界レベルの観客を集めるようになると、誰も何も言わなくなった。