■聞く耳を持たない人たち

「浦和のこの地に6万人も収容する巨大スタジアムをつくろうというのは、浦和レッズというクラブがあり、ワールドカップ後にはそのホームになることを想定してのものでしょう。それならば、浦和レッズがどういうクラブなのかを見れば、サポーター席を第一に考えるべきではないですか」

 私の脳裏にあったのは、1974年ワールドカップ西ドイツ大会で見たドルトムントのスタジアムだった。現在は四方を巨大なスタンドで囲まれる8万人収容のスタジアムになっているが、1974年当時は一層式の低いスタンドがピッチの三方を囲み、サポーターがはいる南側のゴール裏スタンドだけが他の倍以上の高さをもつ巨大な立ち見スタンドだったのだ。当時から、ドルトムントはドイツで最もサポーターが熱いクラブとして知られ、その「実情」にふさわしいスタジアムをつくったのだ。もちろん、このサポーター席にもしっかりと屋根がかけられていた。

 だが、私の質問に対する埼玉県の担当者の返事は驚くべきものだった。

「私たちは、一企業のためにこのスタジアムを建てるのではありません」

 何という欺瞞(ぎまん)! ワールドカップで数試合使用し、その後は日本代表が年間数試合使うというだけで、こんな巨大なスタジアムを計画できるというのか。日常的に浦和レッズが使うという前提で、巨大スタジアムを計画したのではないか。しかし結局、日本サッカー協会から「施設委員」を呼んで話を聞いたのは単なる「儀式」に過ぎず、計画そのままに「白鷺スタジアム」の建設が始まった。

 埼玉スタジアムについては後日談がある。2003年か2004年のことだったと思うが、私はまた埼玉県庁に呼び出された。2001年に完成したスタジアムに対し、県民から「維持管理にカネがかかり過ぎ、税金の無駄づかいだ」と批判が強くなったため、知事をリーダーにした「埼スタ利用促進プロジェクト」のようなものを立ち上げるからその一員になれというのだ。

 総額800億円近くの建設費を投じて巨大な施設をつくることは、建設工事を通じて、正当にであれ不当にであれ、多くの人が潤うから、誰も文句は言わない。しかしいったん完成するとお荷物扱いする――。これが現在の日本の「箱もの行政」のあり方である。

※第2回につづく
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