■武漢の空は妖しい赤紫色だった
その「切れ目」が、見事な夕焼けを見せてくれたのだ。2006年6月15日は薄曇りで、とても蒸し暑い日だった。キックオフは21時。午後9時である。しかしベルリンは北緯52度30分という高緯度にある。北緯45度30分、北方領土を除く日本の最北端である北海道の稚内市よりずっと北にあるのだ。この日の日没が午後9時31分であったということも、理解してもらえるだろう。
試合はB組のスウェーデン対パラグアイだった。スウェーデンが攻め、パラグアイは得意の堅守から速攻をかけるという試合。しかしともにビッグチャンスが生まれないなか、私はふと気づいた「屋根の切れ目」の夕焼けの美しさに魅入られてしまった。前半の終盤、私は試合を追いながらも、ピンク色に染まった美しい夕焼けと、コンクリート打ちっぱなしの西側ゴール裏の頂上からスタンドを監視する係員のシルエットに見とれていた。
2015年8月に中国の武漢でEAFF東アジアカップが行われた。その最終日は、男子の韓国×北朝鮮、中国×日本の2試合。午後5時10分キックオフの1試合目が終わってしばらくすると、スタジアム上空の空が妖しい赤紫色に染まった。ここまで、日本は北朝鮮に1−2で敗れ、韓国とは1−1で引き分けて勝ち点わずか1。しかも第1試合で韓国が引き分けて勝ち点を5に伸ばしたため、日本の逆転優勝の可能性はなくなっていた。この空は、「ハリル・ジャパン」の不吉の前兆かと、不安にさせるような色だった。
しかしJリーグの若手を主体に構成された「日本代表」はふんばった。前半10分に中国の武磊に先制点を許したが、41分に槙野智章のスルーパスから米倉恒貴が抜け出し、中央に送った鋭いパスを右から詰めた武藤雄樹が決めて追いつき、後半には興梠慎三、柴崎岳、浅野拓磨を投入して次々とチャンスをつくった。1−1の引き分けに終わったものの、「いちばんいい試合だった」と、ハリルホジッチ監督は喜んだ。試合前の妖しい空の色は、夕日と武漢の空気汚染という、純粋に科学で説明できるものだったようだ。