■夜と昼との間の一瞬だけの輝き

 もし夜間の試合を上空から見れば、スタジアムは宝石のように見えるかもしれない。道路の灯りだけが連なり、そこをヘッドライトをともした車が流れるように走っているが、そのほかは真っ暗ななか、スタジアムだけが輝いている。いや、輝いているのはスタジアムではない。1500ルクスもの照明で照らし出された緑のピッチだ。

 しかしあたりがすっかり暗くなった夜間のスタジアムはどこか味気ない。神戸の六甲山から見る「100万ドルの夜景」にうっとりする人も多いが、私は、日没の前後、まだかすかに残る薄明かりのなかでいつもとはまったく違う濃い青に染まる町の景色が何より好きだ。

「たそがれどき」という。「たそがれ」という言葉は平安時代以前から使われている古い日本語で、日没後の完全に暗くなっていない時間、向こうから歩いてきた人の顔が判然とせず、「誰(た)そ彼(あなたは誰ですか)」と尋ねることから始まったと言われている。高校の「古文」の時間に居眠りしていなかった人なら、「そんなこと知っているよ」と言うに違いない。この「たそがれ」を、漢語で同じ時刻を指す「黄昏(こうこん)」にあてはめ、「黄昏」と書いて「たそがれ」と読ませるのは、明治時代になってからのことだったらしい。

 ちなみに、夜明け直前、かすかに明るくなった時間を、やはり古い日本語で「かわたれどき」と言うが、これも「彼は誰」という言葉から始まったとされている。古い日本語はとても美しく、優雅なのである。

第2回につづく
PHOTO GALLERY 【画像】たそがれどき、虹、夕闇などさまざまなスタジアムの光景
  1. 1
  2. 2