サポーターは1年を通じてスタジアムで多くの時間を過ごすもの。そんないつもの週末、お気に入りの席でキックオフを待つ試合前、空を見上げて思わず無口になる瞬間がある——。今回は、良いスタジアムの条件の決定版。スタジアムがその魅力をもっとも発揮する、たそがれどきのあれこれだ。美しい写真とともに、たっぷりお楽しみいただきたい。
■キックオフ直前の埼スタは宝石箱のようだった
「埼スタはこの時間がいちばんきれいなんだよね……」
思わずつぶやいていた。夏至前日のことし6月20日日曜日、午後6時56分。Jリーグ第18節、浦和レッズ対湘南ベルマーレのキックオフ前、埼玉スタジアムは一瞬の静寂に包まれていた。そのとき、バックスタンドの屋根が金色に輝いた。
スタジアムは原則として西側にメインスタンドを築くことになっている。夜の試合では関係ないが、午後の試合は太陽の方向が問題になる。テレビ映像は「順光」でなければならない。午後は西に太陽があるから、メインが西側になる。当然、バックスタンドは東側である。この時間、埼スタでは、メインスタンドの背後・秩父山地に沈みつつある夕日がバックスタンド屋根の縁に反射して赤っぽい金色に輝くのである。朝からの雨が上がり快晴になった午後。空気も澄んでいたに違いない。バックスタンドの左には、遠く筑波山のシルエットが浮かび、その上の空には茜色に染まった雲が流れていた。
「金色に輝く埼スタの屋根」は、晴れた日なら日没の少し前にいつでも見ることができる。この日のさいたま市の日没は、私が思わず見とれた時間の5分後、午後7時1分だった。スタジアムの屋根のフチに塗料を塗らず、金属のままにしておいたのは、けっしてこのためではないだろう。しかし一瞬のこの光景を、私はとても気に入っているのである。