■予約したタクシーが来ない!
アメリカの都市は広大である。地図ではオレンジボウルは都心にあるように見えるが、実際には、私のホテルから20キロ以上あった。公共交通機関はなかった。新聞の夕刊の締め切りに間に合わせるには、遅くとも試合終了後1時間程度で送稿する必要がある。選択肢はなかった。試合が終わると同時に飛び出し、タクシーに乗れれば30分後にはホテルに戻れるだろう。締め切りまでには30分の時間がある。
ところが……。試合後、約束の場所に走っていったのだが、タクシーはいない。それどころか、スタジアムから続々と出てきた人で、車道まで人がはみ出している。優勝候補のブラジルの登場、しかもロナウド、リバウドといったスター選手がどんなプレーを見せてくれるのかという期待で、この試合には、4万6724人もの観客が集まっていたのだ。約束したタクシーが来ないなら、別のタクシーを探すしかない。私はタクシーがきそうな大通りまで出ようと歩いた。だが大通りは車であふれ、タクシーは通りかかってもすべて客が乗っている。これでは、とてもではないが、新聞社と約束した時間には間に合わない……。
そのときだった。赤信号で目の前に停車した1台のタクシーを見ると、日本人と思しき2人の若者が乗っているではないか。私は窓ガラスをどんどんと叩いた。そしてダウンタウンのホテルに急いで帰らなければならないので乗せていってほしいと頼んだ。聞くと、彼らのホテルはダウンタウンの東、マイアミビーチにあるという。私のホテルに寄ると少し遠回りになるが、いいでしょうと言ってくれた。
私はピンチを脱し、新聞社との約束を守ることができた。もちろん、私のホテルまでのタクシー代は、私が払った。商社マンのような若い2人は、そこからマイアミビーチまでの料金を払えばいいのだから、少しは安くなっただろう。