手や腕を使わなければ、からだのどこでボールを扱ってもいい。そこには大いなる自由がある。しかし、わざと手や腕を使ってボールをプレーすればハンドリングの反則になり、フリーキックの罰則をとられる。偶発的に手や腕に当たったのなら反則にはならない。この大原則が、あいまいになりつつある。サッカーのルールを決める国際サッカー評議会(IFAB)が制定した新ルール(7月1日から施行される2021/22版)には、根本的な考え方に疑問を呈せざるを得ない。再考を求めたい――。
■つまらなかったサッカーの授業
私が生まれて初めて「サッカー」のプレーをしたのは、小学校の5年生ごろのことだったと思う。
学校体育にサッカーが正課として採用されたのは1958年。実際に指導が始まったのは1962年のことだというから、1962年に5年生になった私は、その最初の授業を受けたことになる。小学校だから、体育の授業も担任の先生が行う。だがサッカーが非常にマイナーだった時代。先生方にサッカーの経験があるわけではなく、スタジアムはもちろん、テレビでもサッカーの試合を見たことなどなかっただろう。だから競技のイメージも貧弱なものだったに違いない。「指導要領」に書かれた要項だけで進められた授業は、少しも楽しいものではなかった。
まず教えられたのが、サッカーとは、足でボールをける競技であるということ、そして何よりも、手を使ってはならないというネガティブな要素だった。そんなことは、小学生でも知っていたが……。さらに、ゴールに入れるのは難しいから、数十メートル隔てた両チームの「ゴールライン」すべてをゴールとする「ラインサッカー」というものだった。
強く印象に残っているのは、「両手を後ろに組みなさい」と指導されたことだった。「手を使ってはならない」ということを強調するためだったのだろう。しかし両手を後ろに組めば体全体を使ってキックすることも、自由に走ることもできない。ときどき自分の前にくるボールをつま先でけっても思いどおりのところには飛ばず、「サッカーってつまらないスポーツだな」と思ったことだけを覚えている。