■守り切るのではなく、勝ち取りにいく「ウノ・ゼロ」

 その姿勢が実ったのが、吉田が先制点を決めた66分のことだった。この得点シーンでは、中央からの崩しを相手DFが「パス」したように、攻め上がっていた吉田の足元にボールが転がってきた。だが、時計を巻き戻せば、スタートは森下である。交代出場で、森下に負けじと積極性を出していた齋藤学が、ボールを受けるとすかさず前に出す。走り込んでいたのは森下だ。ゴール右からのクロスは相手DFに当たってしまったが、このこぼれ球のつなぎが、最後に吉田に届いたのだ。

 得意の「ウノ・ゼロ」勝利へのカウントダウンに入りかけた名古屋で、森下は最後まで前に出る姿勢を失わなかった。浮いた球の処理など、引いて待つ姿勢になるのではなく、自ら取りに出ることで勢いを渡さない。まるでチームが呼応したかのように、これまでなら守備のカードを切っていく名古屋が、残り5分を切るまでそうした動きを見せなかった。ただ守り切るのではなく、勝ち取りにいく。見慣れた「ウノ・ゼロ」で終えた試合だが、これまでとは少し違うニュアンスが含まれていた。

 この試合で森下は、両チームを通じてただひとり20台に乗せる「27回」のスプリントを記録した。1点差で決着した試合を、敗戦の将であるレヴィー・クルピ監督は「両チームともそれほどきれいな崩しがあったわけではないので、お互いのチーム力を考えるともっと見応えのサッカーをしなければいけないゲームだったのかなと思う」と評した。そうした静かな一戦で、やはり森下が注入したエッセンスにはひと際意味があったのだ。


■結果 名古屋グランパス 1-0 セレッソ大阪

■得点

66分 吉田豊(名古屋)

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4