■最初に空を飛んだサッカーチーム

 翌1950年のワールドカップ、3連覇を目指す「世界チャンピオン」として出場したイタリアだったが、マッツォーラをはじめとした「グランデ・トリノ」の選手たちを失った痛手とともに、開催国ブラジルへの渡航に航空便を拒否して2週間もの船での移動を選んだためのコンディション不良もあり、初戦でスウェーデンに2−3と苦杯を喫し、1次リーグで姿を消した。

 20世紀におけるサッカーの飛躍的発展は航空交通の発展と切り離して考えることができない。サッカーのチームとして世界で最初に「飛んだ」のは、1927年6月5日、ブラジル南部、ポルトアレグレの「ECサンジョゼ」というクラブだった。この年に誕生したばかりの民間航空会社「ヴァリグ」が所有する唯一の航空機「アトランチコ号」で、約250キロ離れたペロタスへの遠征に出発したのだ。

 「アトランチコ号」は水上機だった。水に浮く機体の上部に取り付けられた翼の上にエンジンを載せた単発機で、乗客の定員は9人だった。ECサンジョゼは選手3人と役員1人を2日前に船で出発させ、当日は選手9人と役員2人が「アトランチコ号」を利用することにした。2人は貨物室に乗せることにしたのだ。

 当日、ECサンジョゼの選手や役員が全員分厚い毛織りのコートを着てきたため、ドイツ人のパイロットは「これでは離水できない。1人降ろせ」と主張した。しかしチームは譲らなかった。パイロットは離水にトライしたが、必要な速度に達せず、1回、2回と失敗、ようやく3回目のトライで離水に成功し、2時間でチームをペロタスに送り届け、試合に間に合わせた。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5