大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第53回「サッカー記者の50年(石器時代から現代へ)」(1) 「ZOOMとノート」と「12時間の重労働」の画像
2018年ワールドカップ・ロシア大会の私の記者席。パソコンは各デスクに完備されたLANケーブルでインターネットに常時接続され、原稿を送ることだけでなく、情報を検索することも自在となった。しかもインターネット使用料は無料である。(c)Y.Osumi
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ガー・ピー、ヒョロヒョロ。パソコンのスピーカーからこの音が聞こえてくると、これで無事に原稿を送ることができると、心の底からホッとしたものだ。サッカーを報道するために必要なのは、最先端の機材とそれを使いこなす知識と技術。終わることのない追いかけっこなのである。進化の波に乗り遅れるな!

■激変したコロナ時代のサッカー報道

 ときどき、自分自身に「よくやってきたな」と声をかけてやりたくなる。

 私は1951年生まれ。ことし70歳になる。この仕事を始めたのは、まだ大学に籍を置いていた1973年4月のことだったから、もう半世紀近く前のことになる。当時の仕事方法と現在を比較してみれば、驚くほどの変化があったことは、容易にわかる。言ってみれば洞穴暮らしの「石器時代」から、もうすぐ自動車が空を飛ぼうかという「科学技術」の時代まで、ずっと「サッカーを報道する」というひとつの仕事をして生きてきたことになるのである。

 私が仕事を始めたころには、原稿を書くのも雑誌の編集作業もすべて手作業だった。原稿依頼も完成した原稿の受け取りも、すべて編集者が筆者の自宅や仕事場に出向いて打ち合わせし、直接会って受け取った。原稿は、原稿用紙に1字1字書かれたものだった。いまはメールで原稿依頼がきて、パソコンで原稿を書き、仕上がったらメールで原稿を送り、編集者の顔も見ないまま仕事が終わってしまうことも珍しくない。

 コロナ禍の昨年来の大きな変化は、「WEB会議」や「オンライン記者会見」である。会議は会議室に集まって行うもの、記者会見は会見室で「ひな壇」の上に座った監督と丁々発止で質疑応答をするものと、わずか1年少し前までは「石器時代」から変わらない決めごとだったのに、いきなりZoomでの会議や会見になった。

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