■ADカードも持ってないのに
西帰浦のスタジアムはちょっと交通が不便だったので、当日はタクシーで出かけましたが、主要道路には韓国軍が出動してあちこちに検問所が設けられ、身分証明書の提出を求められます。
ようやく、島の南岸の海が見える素晴らしい道路を走ってスタジアムに到着しました。
ところが、タクシーの運転手(運転技士さま)はメインスタンドのある西口ではなく、バックスタンド側の東口に着けてしまったのでした。当然、メディアの受付は西口側にあります。
「さて、どうしたもんじゃろかい?」
もう一度、外に出て西口側に回ってもらってもいいのですが、スタジアム近くはとくに検問が厳しくて面倒くさいので、僕は東口で降りることにしました。
前回のお話でも分かるように、とにかく韓国人は融通が利きます。まして、ここにいるのは済州島の、ソウルの人たちよりも純朴な人たちのはず(これは、僕の勝手な思い込みというか願望です)。入口でチケットのチェックをしていた係員に「私は日本の記者です」と言ってみました。
案の定です。
「やあ、よくいらっしゃいました。どうぞ、ご案内します」
係員は、僕と連れの友人を伴ってメインスタンドの方に向かって歩いていきます。西口のメディア受付に連れて行ってくれるのだとばかり僕は思っていました。
しかし、到着したのは受付ではなく、スタンド下にあるプレスルーム(記者室)でした。韓国の記者たちが熱心にお仕事中です。僕は受付を通っていませんからADカードは持っていません。しかし、誰もそんなことを見咎める人はいません。そのまま、スタンドの記者席に上がって行っても何も問題は起きなさそうです。しかも、スタンドから入口の外にある受付まではかなり遠いようです。
ですから、そのまま試合を見て帰ってしまってもよかったのですが、僕は一応、受付に行ってADカードを受け取ることにしました。まあ、記念品としてほしかったというのが一番の理由です。
こうして、無事に韓国対アメリカの試合を観戦。21分に右CKから柳相鉄(ユ・サンチョル=当時は柏レイソル所属)が決めた1点を守り切って韓国が勝利しました。
それにしても、島中に軍隊が配置された物々しい警備と、ADカードなしでプレスルームまで入れてしまう緩さ……。
韓国というの国の、この両極端ぶりが、僕は大好きなのですが、さすがにこの時は「これで大丈夫なんやろか?」と疑問に思ったものです。