前回、アルゼンチンではその過激さで知れ渡るサポーターに占拠された電車に一人乗るという恐怖の体験をした後藤さん。その試合から、もうひとつのエピソード。こちらはホッコリなおはなしです。
■現地のラジオにサプライズ出演
さて、1999年7月のチャカリタ・ジュニアーズの試合の話の続きです。
ホームの「チャカ」は引き分け以上で13年ぶりの「プリメラA」(1部)への昇格が決まるんですが、押し気味ではありましたが、なかなか点が入らず、緊迫した試合が続いていました。ところが、前半40分過ぎに突然バックスタンド側の照明が消えてしまったんです。
試合は中断しました。
僕がまず思ったのは「このヤバい試合(前回参照)。試合終了が遅くなって、真夜中にでもなったらマズいな」ということでした。
僕の隣の席にはラジオの実況アナウンサーが座っていました。
南米のラジオの実況放送というのは、本当に名人芸のようなものです。
大手の放送局の場合は3人か4人でやって来ます。ディレクター的な人はいないのが普通で、メインの実況アナウンサーがすべてを仕切っています。解説者が1人。それに若いアナウンサーが1人か2人いて、スタッツを紹介したり、CMを超早口で読み上げるのが彼らの仕事です。
ボールがラインを割ったり、ファウルがあったりして、ちょっと間ができると、解説者がしゃべったり、スタッツの紹介があったり、CMが入ったりします。全部、メインのアナウンサーが目くばせをしたり、膝をたたいたりして指示しているんです。
一方、零細企業のアナウンサーはもっとすごいですよ。
長い電線(「ケーブル」ではなく、まさに「電線」)につなげたマイクロホンを持って1人でやって来て、いきなりしゃべりだします(電線がうまくつながっていなかったりすると、携帯電話を取り出してしゃべり始めます)。手には一枚のメンバー表だけ。いや、メンバー表も持たずにやって来て、「おい、メンバー表ちょっと見せて」とか言って、他人のメンバー表を借りてしゃべり始める猛者もいます。
2試合ある時でも、たった1人で2試合ずっとしゃべり続けるわけですから、結構な重労働です。