■新しい鹿島の土台はすでに完成
そうした観点から見ると、別格のクラブがある。鹿島アントラーズである。 年が明けてから鹿島が発表した新加入選手は2人いるが、ともに国外から迎えるブラジル人選手だった。つまり、昨年のうちに補強はほぼ完了していたのだ。
それも当然ではある。何しろ、このオフに他クラブから獲得した選手はゼロ。今季新たに加入した日本人選手はすべて、ユースからの昇格、あるいは高校や大学から加入してくる新卒選手だけなのだ。その事実こそ、鹿島の計画性を強く示している。
鹿島にはもともと、新卒選手をメインに補強をしてきた歴史がある。外国人選手を除いて他クラブからの獲得がないシーズンもざらで、多くても年に2人程度。かつてサッカー批評のインタビューで鈴木満フットボールダイレクターは、たとえ実力は日本代表クラスでも鹿島に合わないと思った選手は獲得しない、と話したが、その血の濃さで強さを維持し続けてきた。
この5年ほど、特にDAZNが支払う莫大な放映権料を原資とした巨額の優勝賞金が出るようになってからは、「勝ち組」になるべく他クラブの主力選手を迎えることも多くなってきた。さらに昨季は異例とも言える、永戸勝也ら5人のJリーガー獲得による補強を施した。東京五輪世代の杉岡大暉ら若手も獲得しており、決して少なくない移籍金も支払ったようだ。
さらに昨季の鹿島は、ザーゴ監督を迎えてプレースタイルも含めて一新を図っている。序盤こそゴールも奪えず連敗と苦しんだが、一度流れをつかむと7連勝を飾るなど好調を維持。最終的にはACL出場圏内の3位と勝ち点3差の5位でフィニッシュしている。
その鹿島が、このオフには動かなかった。昨季の新戦力は主力を担い、染野唯月や荒木遼太郎といった高卒ルーキーも台頭した。つまり、数年スパンの補強プランの下で「新しい鹿島」の土台はすでに出来上がっているのだ。凄みすら感じさせる計画性だ。
放出にも意味がある。山本脩斗、伊東幸敏の完全移籍は、同じサイドバックとして明治大学から迎える常本佳吾に即戦力となる目途が立っているということだろう。FWの補強はないということは、昨季の手応えの裏返しでもある。また、期限付きを含めて鹿島を離れる全選手が、J2以上のカテゴリーを戦うクラブへ移籍した。その「実績」は、選手や関係者からクラブへの信頼度をさらに高める。
前述の通り、プロは結果で語るしかない。補強の成否も、シーズン後に出る結果によって問われることになる。
だが、ここまでの歩みを見る限り、今季の鹿島の補強の答えはすでに出ているように思えてならない。