■Jリーグの人気が伸び悩んだ理由

 サッカーの世界には(アメリカのメジャーリーグ・サッカー=MLSを除いて)「戦力均衡」などという意図は最初から存在しない。弱肉強食の「自由競争」の原理で動いているのだ(リーグ加盟の際に審査が行われて「ライセンス」が付与されるので、単にチームの戦力だけでなく経営力も含めての競争ということになるが)。強豪チームや経営がうまくいっているクラブは豊富な資金力を使って優秀な選手を集めてますます強くなるが、一方でチーム強化や経営に失敗すればクラブは下部リーグに降格して、最終的には消滅してしまう。

 1990年代の初めにJリーグが発足した当時は、リーグが前面に立って経営戦略を講じて全体を富ませるための政策が採用された。つまり、Jリーグはヨーロッパ各国リーグのような「自由競争」ではなく、“護送船団方式”でスタートしたのだ。リーグから各クラブへは各カテゴリー毎に一定の金額が配分される「均等配分金」という制度が採られていた。

 その結果、Jリーグは「戦国リーグ」の様相を呈した。J2リーグから昇格して昇格初年度に優勝してしまうという例すら2度もあるのだ(2011年の柏レイソルと2014年のガンバ大阪)。

 どこのチームにも優勝の可能性が存在する「戦国リーグ」は見ていて面白い。だが、Jリーグ人気は低迷してしまった。

 ライト層のファンにアピール出来なかったのだ。

 多くの観客の興味を引くには絶対的な実力と人気を誇るビッグクラブ、つまり“横綱”が必要だったのかもしれない。とくに、人口が多い大都市をホームタウンとして、大きなスタジアムを持つクラブがそうした存在になれば、観客動員に寄与することができるだろうし、ビッグクラブが来訪すればアウェー戦でも多くの観客が動員できるから地方クラブにとっても利益になる。

 スペインのレアル・マドリードとか、ポルトガルのベンフィカがそういう存在だ。日本でプロ野球が繁栄できたのは、読売巨人軍という首都東京にあり、全国区的な人気を持ったビッグクラブと、それに対抗する阪神タイガースという地域クラブが存在したからだろう。

 だが、Jリーグでは首都圏や関西圏のクラブはなかなかビッグクラブにはなれないでいた。

 そこで、Jリーグでも「理念強化配分金」という制度が採用され、J1リーグの上位3クラブには手厚い配分金が与えられ、上位クラブはさらに強化を進めることが可能となった(新型コロナウイルスの感染症拡大による経営悪化という状況を踏まえて、2021年度には「理念強化配分金」は停止されることになった)。

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