来る2月下旬に開幕する2021年のJリーグでは、J1の全試合でVARを実施することになっている。ところが、すでに導入ずみの海外リーグでは、納得のいかない判定が増えている。さらに、VARの介入が、サッカーそのものをつまらなくしてしまうことまである。われわれは、昨年のACLでヴィッセル神戸が不可思議なVAR判定に泣かされたことも知っている。はたして、このまま導入されていいのだろうか——。
■ワールドカップ・ロシア大会での見切り発車
Jリーグをスタートさせたとき、川淵三郎チェアマンは「走りながら考える」という名言を残した。とにかくプロ化に踏み切り、問題が起こったらそのときそのときで解決策を模索し、それでも足を止めずに進んでいく——。歴史を大きく転換させるには、こうした人並み外れた行動力が必要なのだろうと思った。だが世の中には、「いちど立ち止まって考えてみたら?」と思うことも少なくない。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)もそのひとつだ。
VARの使用が正式に認可されたのは2018年春。公式戦での「試行」許可が2016年だったから、わずか2年間のテストでワールドカップ・ロシア大会で使われたことになる。2016年に就任したジャンニ・インファンチーノFIFA会長が「2018年ワールドカップでのVAR使用」を公約とし、運用方法の検討やVARの役割を果たす審判員の養成に当たっていた国際サッカー評議会(IFAB)に結論を急がせたためだった。
「見切り発車」の弊害は、さっそくその夏のワールドカップで出た。インファンチーノ会長は「重要な判定の精度が95%から99.3%に上がった」と胸を張ったが、その舞台裏では、少数の「VAR熟練者」が連日VARオペレーションルームで働かなければならないという、常識では考えられないことが起こっていた。
この大会ではVAR専門の審判員を13人任命し、主審として任命された審判員6人も起用して計19人態勢で全64試合を担当させた。しかし平均(3.4試合)を超えたのはわずか6人。1試合もメインのVARを担当できなかった審判員が6人もいた一方、イタリア人のマッシミリアーノ・イラティ審判は14試合も担当させられた。この数字にこそ、VARが準備不足のままワールドカップで「見切り発車」的に使われた事実が表れている。