■フィジカルでもなく、テクニックでもなく
身長170センチ、体重65キロ。一流国の代表FWを見れば、寿人は「小柄」と言っていい。予測に基づくスタートの速さはあるが、たとえば現在の日本代表のFW伊東純也(現在ヘンク)のような爆発的なスピードがあるわけではない。かといって、久保建英(現在ビジャレアル)のような圧倒的なテクニックがあるわけでもない。世界レベルで言えば、フィジカルに恵まれず、テクニックも平凡な選手と言ってよい。
歴代の日本代表監督たちが寿人を中心に攻撃を組むことに踏み切れなかったのは、主としてフィジカル面のハンディだったかもしれない。どの監督も、長身で、体を張ってボールを守ることができる選手を求めた。Jリーグでも、2012年に森保監督が広島で寿人をワントップに据えて成功を収めるまで、どのチームも「大きなセンターフォワード」を求めていた。寿人の得点力を生かしたいと考えた監督の多くは彼をサイドのアタッカーに置き、そこから中央にはいってゴールを狙うことを求めた。だがそれは寿人のサッカーではなかった。
寿人の「アイドル」はフィリッポ・インザーギだった。イタリア代表とACミランで活躍し、数多くのゴールを記録したストライカーである。インザーギもまた、フィジカルには恵まれていなかった。181センチということになっているが、体は細く、ファッションモデルにしてもいいような体つきだった。それでも、FWの中央に位置し、瞬間的な速さで相手をかわし、思いがけないところからゴールを決めた。寿人はインザーギの得点映像を繰り返し見てそのプレーの秘密を盗んだ。
国際的なヒノキ舞台とは縁遠かったが、寿人は小学生で本格的にサッカーを始めて以来、自分自身のプレーを磨き、工夫し、成長と進化を続けてきた。Jリーグでの21シーズンで積み重ねた220ゴールには、どの1点にも、「寿人ならでは」の工夫や努力が詰め込まれている。