■勝者のメンタリティを持てた理由は

 もちろん、“秘密”とか“マジック”でこんなことが実現できるわけではない。このクラブが2つのタイトル獲得できたのは、基本的には時間と手間をかけて良い選手を育て、優れた選手、優れたチームを作り上げてきた下部組織の指導者たちの努力の賜物であることは間違いない。

 これまで経営的に苦しい時代もあったサガン鳥栖というクラブにあって、育成のための努力がどのように続けられてきたのか……。そのあたりは、きちんと取材してレポートすべき重要なテーマである。

 お断りしておくが、僕はサガン鳥栖というクラブを取材したわけではない。僕は、2つの大会でサガン鳥栖のU-15とU-18の試合を観戦しただけである。そこから、サガン鳥栖の勝負強さの理由を考えてみようというのがこの原稿のテーマである。

 試合を見ていて感じるのは、サガン鳥栖の若き選手たちが、たとえ先制ゴールを許したとしても、試合の主導権を握られたとしてもけっして慌てないことだ。

 若い選手たちというのは、そうした場面で動揺して、自分たちがやろうとしているサッカーを忘れてしまったりすることが多いものだ。いや、試合運びがうまくいかないことはJ1のトップチームでも、あるいは日本代表チームにでもあることだ。だが、サガン鳥栖の若い選手たちには常に落ち着いて試合を進め、また焦らずに自分たちのリズムを取り戻していくことができる。

 そうした精神的な強さの原因は何なのだろう。もちろん、これもコーチたちの指導のおかげであるのは当然だが、一つにはクラブとしてこうした大会で結果を出してきた、つまり成功体験を積み重ねてきたことが原因なのではないだろうか。

 チームというのは絶えず選手の出入りがあるものだ。

 トップチームでも数年も経てばほとんどの選手が入れ替わってしまう。まして、年代別のチームでは毎年のように主力だった最上級生が卒業し、そして新しい選手が加わってくる。第2種、第3種と区切られている日本サッカー界の制度によれば、3年で選手たちは旅立っていく。

 しかし、クラブとしての伝統というのは積み重ねられていく。先輩たちが戦ってきた経験は世代を超えて後輩たちに受け継がれていく。

 昨年のU-15の大会でガンバ大阪に敗れて準優勝に終わった時に試合に出ていた選手やベンチやスタンドで観戦していた選手たちは、その時の経験をよく覚えているだろうし、3年前に優勝を遂げた時の経験も間接的に受け継がれてきているはずだ。

 リードを許しても、苦しい時間帯が続いても、そうした状況を跳ね返して勝ち進んでいった経験を持ったクラブの選手たちは精神的な強さを持っているのだろう。

※第3回はこちらより

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