この4試合がなかったら、2020年の日本代表の活動は「無」になるはずだった。8月12日、FIFAとAFCが、10月と11月に予定されていたワールドカップ予選を2021年に延期することを発表。そこから日本サッカー協会(JFA)が動いた。ヨーロッパのクラブに所属する「海外組」を招集し、10月にはオランダでカメルーンとコートジボワールと、11月にはオーストリアでパナマとメキシコとの国際親善試合をパーフェクトに実現したのだ。準備期間は2か月にも満たなかった。奇跡とも言えるこの4試合の意味とはーー。協会の反町康治技術委員長に聞いた。
■「海外組」だけの強化試合という名アイデア
「予選延期」の決定を聞くと、田嶋会長は即座にAFCに確認を取り、10月、11月の予選は延期だが、FIW(=FIFAインターナショナルウィンドウ。代表チームの活動日)は生きていることを確認した。すなわち、国際試合をするなら、選手を保有するクラブには代表に呼ばれた選手を送り出す義務があるということだ。海外からの渡航者には全員に2週間の「自主待機」期間を設けている日本に海外チームを呼ぶことはできないが、ヨーロッパではできるのではないか――。反町技術委員長も舌を巻いた、「国際派」の田嶋会長ならではのアイデアだった。
しかし簡単ではないのは明らかだった。まず対戦相手、宿泊するホテル、練習場、試合会場、そして何よりも感染対策……。日本政府のガイドラインだけでなく、試合会場となる国、そしてヨーロッパサッカー連盟(UEFA)のガイドラインに沿う感染対策が必要だった。通常なら、国際試合は半年前には概要が決まり、あとは詳細を詰めるだけという状況で準備を進めていく。しかし10月に試合をするなら初戦は9日。すでに2カ月を切っている。JFA事務局のあらゆる部門がフル稼働しなければならない「戦争状態」になったのは当然だった。
JFAの機関誌『JFAnews』の11月号に掲載された記事によれば、最終的に国際親善試合ができず、トレーニングキャンプだけで終わることも視野に入れて準備が進められていたという。カメルーンやコートジボワールといった強豪との試合ではなく、地元クラブとの練習試合、あるいはチーム内での紅白戦でしかできない可能性もあったのだ。
問題はJリーグで活躍する選手たちだった。12月になって「アスリートトラック」、すなわちスポーツ選手の自主待機期間免除の方針が発表されたが、それ以前は例外がなかった。今季のJリーグは、FIWにも試合を継続し、代表に選出されればルールに従って送り出すことを決定していたが、ヨーロッパで活動するとなれば、少なくとも10日間になる「不在期間」に2週間もの「自主待機期間」が加わり、1カ月間近くもクラブの試合に出られなくなる。ヨーロッパで試合をするということは、事実上、「海外組」だけしか招集できないということだった。