■真剣勝負とエンターテイメントの両立

 87分、カズが投入されたピッチには、まだイニエスタがいた。

 スタジアム全体が、見たいものを見れた、という高揚感に包まれていた。

 このような試合に対して、公式戦でお祭りムードを演出するのはどうなのか、と議論になることがある。賛否両論、様々な意見があるが、個人的には、こうやってスタジアム全体が幸せな気分になっている様子を体感すると、そういう試合があっても良いと思える。

 加えて、この試合では91分に安永玲央にゴールが生まれ、横浜FCが勝利した。花試合ではなく、れっきとした公式戦であることをチーム全体で証明してみせた。

 真剣勝負とエンターテインメントは共存できる。真剣勝負だからこそ、観客はその特別な瞬間をより楽しむことができるのだ。

 それは選手も同じだ。イニエスタも、フリーキックで壁に入ったカズの頭をギリギリ超えるボールを蹴ったり、カズが寄せるのを待ってドリブルを始めたりと、勝利を目指しつつ楽しんだ。試合後、再び両者は笑顔で抱擁したが、最後に握手をすると、勝利のためにフル出場したイニエスタの笑顔は消えた。

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