瀬沼優司がメインスタンドの下から登場すると、スタジアムはおかしな雰囲気になった。1-1の状況で、残りは5分。そこでホームチームがフォワードを投入しようとすれば、さあ勝つぞ!と盛り上がるのが普通だが、なぜか諦めムードが漂ったのだ。
まあ仕方がない……そう思おうとしていた観客は、次の瞬間歓喜に沸いていた。少し遅れてもう一人の選手が姿を見せたからだ。
この日、チケットは完売していた。詰めかけた約7000人の観客のお目当ては、今季の開幕戦では実現しなかったアンドレス・イニエスタとカズ(三浦知良)の競演だった。
試合前のウォーミングアップが終わると、9試合ぶりにメンバー入りした横浜FCの53歳はヴィッセル神戸の選手たちに歩み寄った。そして、その様子を見ていた全員の期待通りにイニエスタと笑顔で抱擁を交わしてみせた。
試合での競演に向けて期待が高まった一方で、これがハイライトになってしまうのかもしれない、という予感もあった。試合展開的に出番があるのかどうか、ということ以外に、イニエスタがその時までピッチに残っているのかどうかもクリアしなければならない。神戸は3日後にガンバ大阪との阪神ダービーを控えているだけでなく、ACLに向けて大黒柱の負傷は避けなければならないため、フル出場するかどうかは微妙だった。