「背中を見せて背後を取る」ヴィッセル神戸・イニエスタ“至高の名人芸”の画像
イニエスタがボールを持つたびに何かが起こる 写真:渡辺浩樹

 彼がボールに触れるたびに、ため息交じりの感嘆が上がる。

 7ゴールが飛び交う撃ち合いとなった、柏レイソルヴィッセル神戸の一戦。敵地のファンを魅了し、また恐怖に陥れたのが神戸の背番号8、イニエスタだった。

 0-4から3点を決め、最後まで勝負を盛り上げた神戸の猛反撃は、イニエスタによって演出された。

 1、2点目は、アシストのアシストとなる絶妙なパスでゴールをお膳立て。そして1点差に迫るPKを自ら決め、3ゴールすべてにからんだ。

 ボールを持ったときのイニエスタは、ある一点に意識を集中させている。

 それは敵の背後を取る、ということ。

 サッカーにおいて、敵にもっともダメージを与えられるのが背後を取るということだ。

 手練手管を駆使して目の前の敵の背後を取っていき、最後にキーパーの背後にボールを置く。

 こうした思考は南米、とりわけアルゼンチンに色濃く見られるが、イニエスタもまた背後を取ることを強く意識している。

 なにをやらせても巧いイニエスタだが、際立って巧いのが敵に背中を見せたときのプレーだ。

 守備側には、敵が目線を上げて仕掛けてきたら「逃げる」というセオリーがある。うかつに飛び込むと一発で抜かれるからだ。

 反対に、ボールを持った敵が背を向けていれば、一気に間合いを詰めればいい。敵が不利な体勢にあるからだ。このときにプレッシャーをかけなければ、前を向かれてしまうことになる。

 だがイニエスタのような名人になると、このセオリーが通じない。背中を見せているからといって間合いを詰めていくと、逆に背後を取られてしまうのだ。

 柏もこれでピンチをまねいた。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4