彼がボールに触れるたびに、ため息交じりの感嘆が上がる。
7ゴールが飛び交う撃ち合いとなった、柏レイソルとヴィッセル神戸の一戦。敵地のファンを魅了し、また恐怖に陥れたのが神戸の背番号8、イニエスタだった。
0-4から3点を決め、最後まで勝負を盛り上げた神戸の猛反撃は、イニエスタによって演出された。
1、2点目は、アシストのアシストとなる絶妙なパスでゴールをお膳立て。そして1点差に迫るPKを自ら決め、3ゴールすべてにからんだ。
ボールを持ったときのイニエスタは、ある一点に意識を集中させている。
それは敵の背後を取る、ということ。
サッカーにおいて、敵にもっともダメージを与えられるのが背後を取るということだ。
手練手管を駆使して目の前の敵の背後を取っていき、最後にキーパーの背後にボールを置く。
こうした思考は南米、とりわけアルゼンチンに色濃く見られるが、イニエスタもまた背後を取ることを強く意識している。
なにをやらせても巧いイニエスタだが、際立って巧いのが敵に背中を見せたときのプレーだ。
守備側には、敵が目線を上げて仕掛けてきたら「逃げる」というセオリーがある。うかつに飛び込むと一発で抜かれるからだ。
反対に、ボールを持った敵が背を向けていれば、一気に間合いを詰めればいい。敵が不利な体勢にあるからだ。このときにプレッシャーをかけなければ、前を向かれてしまうことになる。
だがイニエスタのような名人になると、このセオリーが通じない。背中を見せているからといって間合いを詰めていくと、逆に背後を取られてしまうのだ。
柏もこれでピンチをまねいた。