昨年10月に日本列島を襲った台風19号は多くの人々の生活に深い爪痕を残した。荒川の河川敷に広がる浦和レッズの総合スポーツ施設、レッズランドもゴールポストをはるかに超えるほどに冠水し、水が引いた後も、埼玉スタジアム3個分の広大な敷地を汚泥が覆いつくしていた。多くの人びとの強い意志によって復旧を果たすまでの道のりを詳細にレポートする――。
■立っているはずのゴールが見えない
目の前に広がっているのは、茫漠たる光景だった。
2019年10月13日朝、「レッズランド」のキャプテン(総支配人)を務める松本浩明さんは、荒川の土手のすぐ横にあるクラブハウスから土手を上り、荒川左岸の堤防の下を見たときに飛び込んできた光景を、いまでもよく覚えている。本来ならフルサイズのサッカーピッチ6面を中心にさまざまなスポーツ施設、野外施設が広がるはずのレッズランドが、茶色に濁った水で完全に覆われていたのだ。
未明に台風が去った朝だった。空は美しく晴れ、白い雲が浮かんでいた。しかし見下ろせばスポーツ施設は完全に水没し、グラウンドに立っているはずのゴールも見えない。赤く塗られた通路照明用のポールの上部が整然と並んでいるだけ。「イベント広場」と呼ばれる芝生広場の中央に立ち、夏には豊かな木陰をつくって利用者が憩う巨大なクヌギは、レッズランドのシンボルとも言える存在だったが、それも上部をのぞかせているだけだった。
覚悟はできていた。前日、10月12日の午後5時ごろに国土交通省関東地方整備局の荒川上流河川事務所から電話がはいり、「今夜12時ごろに越流堤から水が流れ込みます」という連絡があったからだ。後に「令和元年東日本台風」と命名されることになる台風19号は、955ヘクトパスカル、最大風速が毎秒40メートルという非常に強い勢力をもったままこの日の午後7時に伊豆半島に上陸、翌13日に三陸沖に去ったが、日本に近づいたころから東日本一帯に猛烈な雨を降らせ、死者104人、行方不明者3人、重軽傷者384人(2020年4月10日内閣府発表)を出し、各地に甚大な被害をもたらした。