■EURO96もモスクワ経由で
3回目は、1996年。イングランドで開かれるEURO96の取材のためにロンドンに向かった時でした。
この時は、同日乗り継ぎができるはずだったので安心していました。ところが、シェレメチェボ空港に着いてみると、その日のロンドン行きは欠航だというではありませんか! 当時、「アエロフロートは乗客が少ないと欠航にしてしまう」という噂がありましたが、あれは本当だったのでしょうか?
それで、いつものようにバスでホテルに向かいました。到着してみると、空港のそばに最近オープンした「ノボテル」でした。フランスのアコーホテルズが経営する近代的なホテルです。「ああ、良かった。今回は普通のホテルだ」と安心したのですが、なんとホテルの一角がビザなしで泊まる人たち専用の区画になっていたんです。
全員が部屋に入ると、廊下の分厚い鉄の扉がガチャンと(音がしたかどうかは記憶が定かでありませんが)閉じられて、その区画から一歩も外に出ることができなくなりました。
廊下の向こうにはレストランがあるんですが、そこには行けません。粗末な食事が、各部屋に配膳されてきました。
「せめて、ビールでも飲めないの?」と聞いたら、「ルームサービスがありまっせ。でも、あんたはん、ルーブル持ってまっか? もしルーブルがないようならクレジットカードを登録せなあきまへんよってにカード預からせていただきまっか?」と言われました。ううん……、クレジットカードを預けるなんて危険なことですが、ビールのためには仕方ありません。
それから小一時間。カードが戻ってきました。「さあ、これでルームサービスが使える!」。僕は勇んで電話の受話器を取り上げました。しかし、回線がつながってないのか、電話はウーとも、スンとも、ピーとも言いません。
ガァ~ン! 幻となってしまったビールの映像が頭の中を目まぐるしく駆け巡ります。
その時、僕は思いつきました。「そうだ、乗客の中に荒井さんがいた!」、と。
毎日新聞の荒井義行記者です。大酒飲みで有名な荒井さんは、どこに行く時もアルコールを肌身離さず持っているはずです。意を決した僕は荒井さんの部屋を訪ねました。期待に違わず、荒井さんはスコッチのボトルを持っていてくれました。荒井さん、あの時はありがとうございました!
翌朝の便でロンドンに向かいました。着陸前、アエロフロートは迷惑をかけたお詫びのつもりか、上空からウェンブリー・スタジアムをたっぷり見せてくれました。開幕戦前日入りの予定だったのに当日入りになってしまい、僕は大慌てでそのウェンブリーに向かいました。
最後に一言。現在は、アエロフロートもシェレメチェボ空港もすっかり近代化して、トランジットのスムースさも世界標準です。安心してご利用ください。