大きな転換期に差し掛かっている、日本の女子サッカーの前途に大きな暗雲がたれこめてきたといえそうだ。なぜ、日本サッカー協会は女子ワールドカップ招致に失敗したのか。東京オリンピックを控えた“なでしこジャパン”にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。
■最強ベレーザを追いかける神戸と浦和
6月末にJ2リーグ、7月4日にJ1リーグが再開したのに続いて、関東大学リーグ、ジャパン・フットボールリーグ(JFL)、そして日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)と各カテゴリーのリーグ戦が相次いで開幕した。
7月18日に開幕したなでしこリーグでは、リーグ5連覇中の「絶対女王」日テレ・東京ヴェルディベレーザ(昨年までは「日テレ・ベレーザ」)中心の展開になるのは間違いないが、開幕戦では最終的には追加タイムに入った93分にDFの土光真代が30m近いロングシュートを叩き込んで劇的な勝利を飾ったものの、ノジマ・ステラ神奈川相模原(昨季7位)に大苦戦を余儀なくされた。
個人能力で上回るベレーザは90分を通じてゲームを支配して攻撃を続けたが、最後までノジマの分厚い組織的な守りを崩しきれなかった。後半には17歳の木下桃香や19歳の菅野奏音を入れるなど選手を入れ替え、並びも変えて攻め続けたが、最終的には強引にゴール前に迫るだけで、ことごとくノジマの守備に跳ね返されてしまった。
開幕が4か月延期となって実践から遠ざかっていたことによって試合勘が失われているという面もあったが、なんといっても昨シーズンの主力2人が抜かれたことの影響は大きかった。
まず、昨年まで5年連続得点王という点取り屋の田中美南がライバルであるINAC神戸レオネッサに移籍。さらに右サイドでゲームメークをしていた籾木結花がアメリカのレインに移籍してしまったのだ。主力2人が抜けた穴は、まだ埋まり切っていなかった。
若手の育成には定評のあるチームだけに次々と若手が台頭しており、試合を積み重ねていけばチーム状態は改善されていくことだろうが、当面は苦しい試合も多くなるかもしれない。
また、この試合では北野誠監督率いるノジマの試合運びは見事だった。攻め込まれながらも守備の組織は崩れず、さらに前半の4-4-2から後半に入ると5-3-2、4-3-3と5人の交代選手をうまく使いながらシステムを変更し、終盤にはカウンターからあわや得点という場面を何度か作っていた。
なでしこリーグは、かつては上位と下位の差が大きかったが、女子サッカーの裾野が広がったことでどのチームもうまい選手をそろえている。そして、相手を研究し、ゲーム戦術に基づいて規律の高い試合ができるようになっており、下位チームが上位を苦しめることも珍しくない。昇格組のセレッソ大阪堺レディースなども侮れない力を持っている。
さて、「絶対女王」のベレーザを追うのは、まずなんといっても過去リーグ優勝4回を誇るINAC神戸レオネッサだろう。
このチームの最大の注目は何といってもベレーザから“禁断の移籍”を果たした田中美南だ。
開幕戦を見ても、ベレーザにとって「個の力」でゴールを奪える田中が抜けた影響は大きかったが、田中は神戸のために早速その力を発揮している。神戸の開幕戦は伊賀FC相手に1対0の辛勝に終わったのだが、その貴重な決勝ゴールをもたらしたのが田中だったのだ。神戸には今や代表のエース格となった岩渕真奈など、代表クラスが何人も所属しているだけに、田中の得点力が生かされればタイトル奪回も夢ではない。
また、神戸は新監督としてゲルト・エンゲルスを迎えた。30年前に来日したエンゲルスは日本で各カテゴリーのチームを指導した経験を持ち、日本語も堪能。Jリーグでも横浜フリューゲルスや浦和レッズの監督を務めたことのある指導者だ。1998年シーズンに横浜フリューゲルスがマリノスとの合併という形で消滅した時の監督で、このシーズン、フリューゲルスは天皇杯で優勝を遂げている。
男子のJ1リーグ監督経験者が女子チームの監督を務めるのは珍しいことで、エンゲルスの下で神戸がどこまで強化されるのかが楽しみだ。
ベレーザ、神戸を追うのが浦和レッズ・レディースだろう。2017年までベレーザの監督を務めてリーグ3連覇に導いた森栄次を監督に迎えた昨シーズン。日本の女子サッカー界の名将の一人と言っていい森監督は、ベレーザを苦しめるなどチームをいきなり2位に導いた。その森体制が2年目を迎える今シーズンはさらなる躍進を目指したい。
代表のCF菅澤優衣香など大型選手をそろえたダイナミックな攻撃サッカーが浦和の魅力で、今シーズンはドイツ帰りの猶本光が加入して攻撃のタクトを振るう。
21歳という若きDFリーダー南萌華の成長にも期待したい。2018年に日本が優勝したUー20女子ワールドカップで大活躍してブロンズボール賞(最優秀選手部門3位)を受賞、昨年12月のE-1選手権でも最優秀選手賞に輝いたのが南だ。こうした国際大会でのMVPにDFの選手が選ばれること自体が珍しいことで、それだけにその潜在能力の高さがうかがえる。