大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 第15回「キャプテンは誰?」の画像
横浜FMを救ったキャプテン・喜田拓也 写真:長田洋平/アフロスポーツ
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かつて、キャプテンの存在意義を認めない男が日本代表の監督をつとめていたことがある。彼は思っていただろう。その腕のじゃまそうなものはなんだ、と。いやいや、サッカーの歴史をひもとけば、腕に輝く「アームバンド」は大いなる権限と重責のしるしであり、さらには名誉と栄光の象徴でもあるのだ。

喜田拓也の強烈なリーダーシップが横浜F・マリノスを救った

 Jリーグが再開し、最初は無観客、続いて5000人までという限定のついた試合開催が行われている。サポーターの歌声がないスタジアム。だがその寂しさのなかにも、これまでになかった楽しみがある。選手たちの声がストレートに聞こえてくることだ。7月8日に行われた「横浜F・マリノス×湘南ベルマーレ」(ニッパツスタジアム三ツ沢)では、横浜FMのキャプテン、喜田拓也の強烈な声がチームを救うのを見た。

 湘南にリードされ、追いつき、逆転し、こんどは追いつかれ、またリードした試合終盤、湘南の猛攻をはね返してほっとひと息ついている前線の選手たちに、喜田のドスの効いたダミ声が浴びせられた。前線の選手たちは、オナイウ阿道(24歳)を除けばすべて「年上」ばかり。だが彼は遠慮しなかった。

「休みじゃないぞ!」

 横浜FMがなんとか3-2のまま試合を終わらせることができたのは、この声のおかげだった。

 喜田は、昨年、扇原貴宏、天野純とともにキャプテンに指名された。24歳という若さだったが、中盤でボールを奪い、攻撃に出ていくダイナミックなプレーでチームの中心になり、優勝に貢献、Jリーグのベスト11にも選ばれた。1試合を高い集中度で戦い抜く姿からは、もちろん、強烈な「キャプテンシー」を感じたが、ことし、改めて無観客のなかで彼の声を聞き、アンジェ・ポステコグルー監督が信頼する理由がわかった。

 今日のサッカーでは、試合を見れば誰がキャプテンかすぐにわかる。みんな「アームバンド」を巻いているからだ。Jリーグでは、「ユニフォーム要項」の第7条に「チームのキャプテンは、キャプテンであることを明確に表示するアームバンドを着用しなければならない」と明確に規定されており、違反すれば罰金が科される。ちょっとじゃまそうだが、アームバンドを巻くこと、キャプテンを任されるということは、選手たちにとって小さからぬ出来事であるに違いない。

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