■ワールドカップでの選手交代は、1970メキシコ大会年から
1966年のイングランド・ワールドカップでも選手交代はまだ認められていなかった。そのため、西ドイツ対ソ連の準決勝では開始早々にソ連のヨジフ・サボが負傷でプレー続行が不可能となり、さらに後半開始直後にイゴール・チスレンコが退場となったため、ソ連は2人少なくなってしまい、1対2で敗れてしまった。これをきっかけに「ワールドカップでも選手交代を認めるべきだ」という意見が強まり、4年後のメキシコ大会からはワールドカップでも2人の交代が認められるようになったのだ(その2年前、日本代表が銅メダルを獲得したメキシコ・オリンピックでも選手交代は認められた)。
1970年大会開催地のメキシコは標高2000メートルの高地であり、また欧州でのテレビ放映のために気温が高い現地の昼に試合が行われたため、選手交代は有効に使われた。
選手交代を最も有効に活用したのが西ドイツのヘルムート・シェーン監督だった。西ドイツにはヘンネス・レーア、ユルゲン・グラボウスキ、ラインハルト・リブダという3人のウィンガーがいたが、シェーン監督は交代も使ってローテーションしながら3人をうまく起用したのだ。
その後、1994年には2人の交代枠以外にGK1人の交代が認められ、1995年には交代枠が「GKを含めて3人まで」となって現在に至っている。また、2000年には親善試合などで両チームが合意すれば何人まででも交代できるようになり、さらに2016年にはFIFAは延長戦に突入した場合に4人目の交代が認めるルールを試験的に導入。同年のリオ・デ・ジャネイロ・オリンピックで適用された後、2018年のロシア・ワールドカップから正式に適用されるようになった。
そして、2020年には新型コロナウイルス感染症対策で各国リーグ戦が中断し、再開後に過密日程が予想されたため、FIFAは例外として公式戦でも5人までの交代を認めることとなったのだ。
つまり、長期的に見ると、本来フットボールというスポーツでは選手交代は認められなかったのだが、時代とともに交代が認められるようになってきたのである。
ちなみに、サッカーで選手交代が認められるようになった後もラグビー(ユニオン)では交代は認められなかった。だが、今ではラグビーでは8人までの交代が認められているほか、出血や頭部の負傷があった時には一時的交代も認めるようになっている。
ラグビーという激しい身体接触を伴う競技では選手たちの消耗も激しいし、負傷のリスクも高い。交代を認めるようになったのは必然の流れと言ってもいいだろう。
こうした長期的な傾向を考えれば、将来はサッカーでもさらに多くの選手の交代が認められるようになる可能性は大きい。とすれば、2020年に暫定的に採用された5人交代制は一つの実験となるのではないだろうか。
もし、5人交代制によって多くのドラマが生まれ、戦術変更の面白さを多くの人たちが実感したとすれば、「新型コロナウイルスの感染の終息後にも5人交代制を維持すべきだ」という議論が巻き起こる可能性もある。今後も5人交代制の影響については、注目して見ていきたい。