チームは勝ち続け、サポーターは泣く泣く帰国

 コスタリカにとっては、暑さに加えてもうひとつのアドバンテージがあった。ファンの後押しだ。

 コスタリカは決して裕福な国ではないが、ブラジル北部は比較的近いこともあり、多くのサポーターが会場に押し寄せた。

 観客席の大半はナショナルカラーの赤に染まり、対戦相手のサポーターは「こんなに大勢のコスタリカ人を見たのは初めてだ」と目を丸くしていた。

 コスタリカはブラジルで計5試合戦い、そのうち3試合を私は観戦したが、とても奇妙な現象を目撃することになった。

 グループリーグからラウンド16、さらに準々決勝と頂点に近づいていくたびに、サポーターが増えるどころか減っていったのだ。

 イタリアを下した第2戦のあと、バス乗り場で言葉を交わしたサポーターは、大金星に狂喜乱舞しながらも戸惑いの表情を浮かべていた。

「4試合目があるなんて、言葉にできないほどうれしい。でも、俺たちは祖国に帰らなきゃいけないんだ……」

 つまり、コスタリカの躍進をだれよりも驚いていたのが、実はコスタリカ人だったわけだ。

 コスタリカの人々はとても謙虚で、サポーターの大半は伝説のチームと対戦できるだけで満足していた。グループリーグの先のことなどまったく想像していないし、急に滞在を延ばせるほど裕福でもない。

 おかげでチームは快調に勝ち続けているのに、サポーターの多くが次々と戦線を離脱。泣く泣く家路につくことになった。

 ブラジルの暑さがもたらした、コスタリカの快進撃。

 それは背伸びをしない小国の人々にとって、百年語り継がれる美しい記憶となった。

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