五倫取材の裏側! スポーツライター杉山茂樹×戸塚啓“俺流激突”対談 後編
戸塚氏(左)と杉山氏

 いまだ収まらないコロナ禍。東京五輪は来年の夏への延期となり、一部を除き世界各国のサッカーのリーグ戦、チャンピオンズリーグも延期や中止となるなど大きな影響が出ている。Jリーグも、2月25日に試合開催の延期が決まり、2節以降が開催されておらず、いまだ、リーグ再開の日付は決まっていない。
 まさに未曽有の事態を迎えたサッカー界。本来は、今から2か月後の7月から始まる東京五輪で、森保一監督率いるU―23サッカー日本代表は、各予選を勝ち抜いてきた世界の強豪国と対戦することになっていた。東京五輪は来夏へ延期となり、現時点ではまだ年齢制限が設けられている男子サッカーの出場条件についての正式な発表もなされていない。
 今回、辛口の評論でおなじみの“サッカー番長”こと杉山茂樹氏と、サッカー日本代表取材数409試合を誇る戸塚啓氏、2人のベテランスポーツライターが、五輪取材の裏側を語り合った。前編では杉山氏が、1992年のバルセロナ五輪で、水泳女子200メートル平泳ぎの岩崎恭子選手の金メダルを現場で目撃したと語ってくれた――。

 

――すごいですね!

杉山  自分で言うのもなんだけど、すごいんだけど(笑)、偶然なんですよね。あれ目撃してる日本人ってそうそういないんです。あれは、実は同じ時間に柔道の試合があって。水泳は、モンジュイックの丘でやってたんです。メインスタジアムの脇に競泳会場があって。柔道場はFCバルセロナの競技場・カンプ・ノウの横でした。その柔道場が。その日は金メダル大本命と言われた小川直也が試合をする日で、だから取材陣はみんなそっちに行ってたんですよ。で、僕は、小川は、準決勝ぐらいまでは行くだろうと予想して、競泳会場のあるモンジュイックの丘からから柔道会場まで何分くらいで行けるかっていう土地勘があった。

 だから、岩崎恭子ちゃんの泳ぎを最後まで見ても、柔道の最後には絶対間に合うという確信があった。まあ、小川は銀メダルだったんだけど、岩崎恭子ちゃんの金メダルと両方も見ることができちゃった。

――岩崎選手の方を見れた人のほうがレアだったんですね。

杉山  そうそう。でも、そんな短時間に、金と銀の2つメダルが見れるわけじゃないですか。これがオリンピックなんですよ。それをサッカー取材でよその町に行っちゃうと、たとえばアトランタからマイアミまで行っちゃうと、3日ぐらいつぶれちゃうんですよ。たった17日間しかない期間の3日を、サッカー1試合で費やすほどバカなことはないと。

戸塚  たしかにリオ五輪のときは、他の競技のこと何も分からなかったですもん。日本選手団がどうだったのかなんて、ブラジルのテレビではやってくれないじゃないですか。インターネットで結果を調べることはできるけれど、日本選手団のメダル獲得の瞬間をライブで見た、というのはあったかどうか……。

杉山  日本仕様じゃないからね。

戸塚  だから分からないんですよね。というか、サッカーでも他の国の試合はあまり見られなかったと思います。日本の試合がない日も、練習の取材に行くわけじゃないですか。取材が終わってホテルに戻って、テレビを点けたらその日の試合はもう後半、とかいうのがだいたいのパターンだった気がします。

杉山  まあ、今はネットがあるから結果は分かるけどね。ただ僕はオリンピックの現場に行くと、見たい競技がめちゃくちゃ重なるんですよ。そこで、どっちに行くのかが一番のポイントになってくる。アクセスとか考えると、やはり開催場所が集中してるコンパクトな大会の方が、大歓迎なんですよね。まあ、プレスカードを持ってても入れる競技は限られてるわけで、そうするとチケットを買って入る。当然、自分の予算があるけど、上手くやれば朝から夜まで最大4つ、5つ行けるんですよ。バスケットのチケット、まだ売ってるとか、飛び込みのチケットもあるぞとか、陸上100メートルの決勝、10万円で出てるよ、みたいな感じで、情報が入ってくる。

 2008年北京オリンピックの男子100m、ウサイン・ボルトも、僕は、記者席のすぐ横で見てるんですよ。記者席がゴール板のちょうどのところにあるんですが、陸上の100メートル決勝は、記者も殺到するんで、プレスパスを持っていてもまず入れない。雑協(日本雑誌協会)で1人入れるかどうかでしょ。新聞も各社1人とか。そういう中で、僕はたしか10万ぐらい払って観戦したと思うけど、自分の感覚的としては安かった。

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