■日本の「バン方式」の欠点

 もちろん、すでに消化されたブンデスリーガ・シーズンの4分の3近くの試合ではVARが使われ、そのアドバイスによるPK判定などもたくさんあったに違いない。「公平性」の観点からすれば、シーズンの残り9節でもVARを使うべきかもしれない。しかしそれがVARを担当するレフェリーやオペレーターにリスクを強いることとにつながることは、十分考慮されなければならない。

 ブンデスリーガはVORの「二密」を避ける方法を見いだすかもしれない。ケルンの放送センターの使い方次第で、「密接」せずに作業を行う方法を編み出すことは可能かもしれない。しかし「バン方式」でVARを行っているリーグや大会ではどうだろう。日本のJリーグもそのひとつである。

 韓国やカタールなどアジアの国ぐにからもVAR導入が遅れた印象のあるJリーグだが、日本サッカー協会の審判委員会は「拙速」に走ることなく、日本人の仕事らしく周到な準備を行い、研修会を繰り返してVARの資格(IFABの認定が必要)をもつ審判員を70人以上も確保して今季のJ1での完全実施にこぎつけた。

 昨年はルヴァンカップの準々決勝以降などでVARを使用。その結果は非常にポジティブだった。

 サッカーのルールでVARが正式に使用を認められたのは2018年のこと。IFABがVARの公式実験を認めた2016年以来、FIFAも主催大会を通じて積極的にVARの実験を重ね、プロトコル(手順の規定)などを策定してきた。公式大会でFIFAがVARを採用した最初は2016年12月に日本で開催されたFIFAクラブワールドカップだった。そして2018年にIFABが正式認可すると、FIFAはその年のワールドカップでさっそく使った。

 FIFA前会長のジョゼフ・ブラッター氏は「サッカーは人の目で判定するもの」という哲学の持ち主で、判定へのいかななるテクノロジーへの導入にも反対の立場だった。しかし2010年ワールドカップ南アフリカ大会での重大な判定ミスを機にゴールラインテクノロジー(GLT)の導入を認め、2014年ワールドカップ・ブラジル大会で使用した。しかし彼はVARの導入には最後まで否定的だった。

 だが2015年の「FIFAゲート」でブラッター前会長が失脚、2016年に就任したジャンニ・インファンティーノ会長はVAR導入を熱望し、その希望どおり2018年ワールドカップに間に合わせた。

「VARの導入によって、重要な判定の精度が95%から99.3%に上がった。これは『進歩』であり、私は非常に満足している」。2018年ワールドカップ終盤に行われた記者会見で、インファンティーノ会長は誇らしげに語った。

 だがその内実を、この大会の「VAR主審」として13人任命した審判員のうち、数人の審判に大半の試合を任せ、メインのVARに指名されなかった審判員が4人もいるというデータが雄弁に物語る。ほんのひとつかみの「エース」を「連投」させることで大会の64試合を乗り切ったということだ。極度の集中力を要するVARの仕事を1カ月間の大会で20試合近く担当するというのは尋常ではない。大会途中、私は「VARに過労死が出るのではないか」と心配になったほどだった。

 VARを任せられる審判が数少なかったという事実は、2018年ワールドカップでのVAR導入が「時期尚早」であったことの何よりの証拠だ。

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