「リーグは再開できても、VARは?」――密を避けるには――の画像
2018年ワールドカップのVAR施設 写真:アフロ
 新型コロナウィルスの影響で窮地にある各国リーグ。試合開催に向けてさまざまなルールを整備しつつあるが、そこにはある観点が抜けているのではないか——。

 ドイツのブンデスリーガで無観客でのリーグ再開に向けた綿密な取り組みが計画されているという。4月30日の『東京新聞』に、共同通信(ベルリン)発の記事があった。

「感染防止の観点から運営に必要な人員を極力抑え、両チームの選手やスタッフを含めた人数は1部リーグの試合で最大322人と算出する」

「スタジアムを①内部②スタンド③周辺―の三つに区画。①は両チームの選手、スタッフ、審判員ら、②はクラブ代表者や警察、消防、記者ら、③は警備員や中継スタッフらが主に使用する。区域ごとに立ち入れるのは100人前後。試合前後を含めて時間帯で入場可能な人数を指定し、①~③の合計が332を超えなくても同時に同一区域に大人数が偏って集まることは認めない」

 ブンデスリーガの再開は早くて5月9日(土)とされており、ドイツ人らしく綿密な計算に基づいた計画は、今後無観客での再開を予定している各国のリーグにとって貴重な指針になると思われる。

 だがこのなかで忘れられていることがある。ビデオアシスタントレフェリー(VAR)である。

 ブンデスリーガでは、VARが正式認可される前の2017/18シーズンに国際サッカー評議会(IFAB)公認の「実験」として全公式戦で導入し、すでに3シーズンを経過して、レフェリー、選手、観客などの理解も進んでいる。

 集約的に試合映像を見てピッチ上のレフェリーにアドバイスを送るVARが仕事をする部屋を「VARオペレーションルーム」と言い、「VOR」と略しているが、FIFAが想定していたスタジアムの外に駐車したバンに映像ケーブルを引き込む形でVORを設けるという形ではなく、このブンデスリーガでは、「実験導入」の1年目からケルンにある放送センターに各スタジアムから専用高速回線で送られてきた映像を引き込む、いわば「セントラル方式」で同時開催の試合数に応じたVORを置いた。

 試合ごとにVORを設置する必要がなく、VAR担当審判員も試合会場に移動する必要がないなど、この方式には大きなメリットがある。同じ形がオランダでも採用され、2018年のロシア・ワールドカップではモスクワの放送センターですべてのVARオペレーションが行われた。

 この意味では、「スタジアムの三密」を防ごうというブンデスリーガの計画にVARが含まれていないのは当然かもしれない。

■「三密」が避けられないVOR

 しかし現状のVARシステムは、どこに置かれようと、まさに「三密」そのものVORなくしては成り立たないことに注目しなければならない。

 VARは極度の集中が必要な仕事である。VARを経験したある日本の審判員は、「終わると、本当にぐったりしてしまう」と話していたが、途中に15分間程度のハーフタイムがはいるとしても、90分間、すべてのプレーに集中し、すばやくでチェックしながら流れにも遅れないように画面を見続けるのは誰にもできる仕事ではない。

 モニター画面に集中するため、当然、VORの内部は外光や外部の音はシャットアウトされ、照明も絞られている。さらに純粋にプレーを見るためにモニターの音源は切られ、スタジアム内の歓声やブーイングなども聞こえないようになっている。

 当然ながらVORは、換気はあるものの「密閉」の状態にある。

 さらにVARとアシスタントVAR(AVAR)、そして映像のオペレーターと、少なくとも3人がVORにはいり、協力してチェックに当たらなければならないので「密接」の状況にある。

「密集」の状況こそないかもしれないが、今日的な基準からすればVORは極めてリスクの高い場所と言わなければならない。ブンデスリーガではVORをどのように運営するつもりなのだろうか。

「無観客開催」の前提には、当然、「新型コロナウイルスの脅威は去っていない」という認識がある。それでも社会に喜びと希望を与え、同時にクラブとプロサッカーが生き残るための手段として実施に踏み切ることになる。

 それを前提に、私は、「いまVARは必要なのか」と問いたい。

  1. 1
  2. 2
  3. 3