――今後のための策と話されていた海外とのつながりづくりは、どのように行っていますか。

「もう少しお金があれば、どんどん若いコーチを世界に出したいですね。今はスクールのコーチを3カ月間、インドネシアとフィリピンに行かせています。日本からの駐在員の家族が多くなりますが、子どもたちを集めてサッカーを教えて、向こうのクラブとのパイプもつくります。できれば、何年か経ったらヨーロッパにも海外派遣をし、半年や1年のスパンでできたら、また違う道が開けるのではないかと思っています。その先に、湘南が直接ヨーロッパで評価されるというターゲットがあると思っています。

 Jリーグもこれまで、コーチの育成などに補助金を出してくれました。潤沢な放映権料から、若いコーチの欧州留学の補助金にするというのも、ありじゃないでしょうか。たとえ自腹で200万円かかったとしても、補助金が出る上に受け入れ先として欧州のクラブがあるとしたら、行きたい人はたくさんいるはずです。そのうち半分が1年後に帰ってきて、残りの半分が欧州で次のステップを踏み出しても、その子たちはいずれ日本に帰ってきます。その時に初めて、欧州との飛行機で10時間ほどの距離が埋まって、日本のサッカーもワンステージ上に進むような気がします」

湘南独自のスタイルで価値を上げていく

――キャンプでも、トルコやスペインなど積極的に欧州へ行くのはそのためですか。

「湘南は海外キャンプでいいね、金があるんだねって言われるんですが、国内でキャンプをするのと500~600万円しか違わないんですよ。スタッフ50人が行くとしたら、1人10万円の上乗せだけです。J1で1試合あたりの勝利給より安いのだから、先行投資として使って、知らない世界でヨーロッパのチームと試合をした方がいいと、私は思います。

 クロアチアやモスクワから来たチームなどと、2週間で6試合くらいできる。その中には、ドイツでプレーしていた頃には数億円の年俸をもらっていた選手もいたりする。うちから移籍していった選手たちは、そこで新しい経験をしたわけです。そういうヨーロッパの選手、あるいはポーランドで11位のクラブを相手に球際でやられているのに、世界に出たり日本代表に入れるのか、と夜のミーティングで言われると、翌日から選手は明らかに変わっていきます」

――クラブとしても、危機感があるのでしょうか。

「リーグも、競争の時代だと宣言しています。クラブは、自分たちの経営環境で努力して結果を出さなければなりません。

 大分はJ3から昇格してJ2を制して、J1の上位にも緊張感を与えている。それこそが競争であり、J1からJ3まで56クラブが一緒にやっている価値だと思います。昇格してきたクラブが、選手を引き抜かれても、またアカデミーから優秀な選手を輩出して、皆が手を抜けない状況を生み出す。そうやって下部リーグから競争原理が機能することで、56クラブが存在しているという事実の価値が上がると思います」

――競争力をつけるいい流れに、湘南は乗っていますか。

「DAZNからの巨額の放映権料がJリーグにもたらされていますが、それに頼らずともしっかり数年後に経営できるようになっていることが、私たちが目指す一つであると思います。そうなっても生きていく道は、やはり育成しかありません。たくさん育成関連のカードを手元に置いて、直接海外と会話をしていくんです。

 高校年代の選手が入る寮をつくることができました。積極的に外に出してくれるから湘南に行こう。育成年代の選手たちがそういう感覚でうち来てくれる世界をつくることが、次の年代でできるといいですね。

 浮嶋(敏)監督は昨年途中、急にトップチームを率いることになりましたが、育成をずっとリードしてきた浮嶋がトップの監督を務めることになったことは本当によかったと思っています。これでチームが伸びれば、ベルマーレはアカデミーを通じてちゃんとした構造の中で動いているんだと周囲にわかってもらえて、クラブの価値を上げることになります。それを見て、子どもたちが湘南に行きたいと思ってくれるなら、世界がワンステージ上がったということです。そういう策を独自で考えて、生き残っていかないといけないんです」

 

眞壁潔(まかべ・きよし) 1962年、神奈川県平塚市生まれ。ベルマーレ平塚(当時)が存続危機に陥った1999年に、地元の平塚市商工会議所青年部の一員として、クラブに関わるようになる。クラブの取締役を経て、2004年に代表取締役に就任。Jリーグや日本サッカー協会の理事も歴任し、湘南ベルマーレでは2014年から会長。

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