スビサレッタがスポーツディレクターに就任したのは2010-11シーズン開幕前だ。そして、前述のように2014-15シーズン途中に解任の憂き目に遭っている。その後、2015-16シーズンに向け、スビサレッタの後任に選ばれたのはロベルト・フェルナンデスである。(ボーナスを除き)補強費4億6000万ユーロ(約552億円)を投じたロベルト・フェルナンデスだが、成功した補強はサミュエル・ウンティティ(2016年夏加入/移籍金2500万ユーロ)のみだった。

 バルトメウ会長は2018年夏にペップ・セグラ、エリック・アビダル、ラモン・プラネスをスポーツ部門の要職に就かせ、複数人体制に切り替える。しかしながら、その翌年にはペップ・セグラが去り、アビダルとプラネスの二頭体制になった。

 また、ペップ・セグラが去る直前にはジョルディ・メストレ副会長が辞意を表明した。バルトメウ会長が2015年に再選を果たして以降、その際に据えた5人の副会長のうち、4人が理事会を離れる決断を下している。補強担当や副会長クラスの人間が短期間にこれだけ入れ替わるのは普通ではない。

 そして、その間ーー。大きな動きがあった。言わずと知れた、ネイマールの世紀の移籍である。

 その移籍は世界のパワーバランスを変えてしまった。カタール人オーナー(ナセル・アル・ケライフィ)をトップに据えるパリ・サンジェルマンが、歴史的にも実績的にも欧州で地位を築いていたバルセロナから、「お金」で主力選手を引き抜いた。マネーゲームで優位に立つクラブが主導権を握る。そんな時代を象徴する大型移籍だった。パリSGというクラブは2011年にカタール投資庁の子会社であるカタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI)に買収され、文字通りの「国家クラブ」となった。つまりネイマールはカタールの国家プロジェクトの一部になるために移籍したと言えるだろう。

 ネイマールを引き抜かれ、バルセロナは再び杜撰なクラブ体制を露呈した。契約解除金の設定、選手・代理人との交渉、クラブ間の関係構築、あらゆる要素において新興勢力に敗れたのである。

 それでも、ネイマールの代役を即座に見つけられていれば、傷は浅かった。だがバルセロナはウスマン・デンベレ(移籍金固定額1億500万ユーロ/約126億円)、フィリペ・コウチーニョ(移籍金固定額1億2000万ユーロ/約144億円)獲得に際して、ネイマール売却で得た資金を早々と使ってしまう。ボルシア・ドルトムントとリヴァプールに買い叩かれ、挙げ句、2選手の獲得は思ったような成果をあげられなかった。

 クラブ内部の人事でゴタゴタが続き、ネイマールに逃げられ、代役確保のための補強はことごとく失敗した。自滅するように、気付けば迷宮に足を踏み入れていたのだ。

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