■ 「自信がなければ潰されるだけ」19歳DFの豪胆と、終わらないパブの祝祭
「ブルーノ・ギマランイスが外した時には興奮した。僕が決めればアーセナルに勝てるとわかるとすごいプレッシャーが襲いかかってきたけど、それが僕をおびえさせることはなかった。その自信がどこから来たのかわからない。しかし僕が生まれ育ったベルファスト(北アイルランドの中心都市)では、自信がなければあっと言う間につぶされてしまうんだ」
勝負がついた瞬間、狂喜した少年たちやサポーターがピッチに飛び出し、選手たちをもみくちゃにした。その興奮のなかで、ホーウェイは、キック前と同様、19歳とは思えない落ち着いた口調で最後のキックを振り返った。
「フリートウッド・タウン、アーセナルを倒す」の報は、この夜のイングランド・フットボールのトップニュースとなった。イングランドだけでなく、世界中に発信され、驚きをもたらした。
ヒーローとなったGKジェイ・リンチは、1993年3月31日生まれの33歳。マンチェスター・ユナイテッドのユースで育ったが、やがてボルトン・ワンダラーズに移籍、だが出場機会に恵まれず、以後はノンリーグやリーグ2、リーグ1のクラブで過ごしてきた。クラブは身長188cmと発表しているが、この日のアーセナルGKメリエ(197cm)と並ぶと、20センチ近く低そうに見えた。
2022年に「リーグ1」時代のフリートウッド・タウンと契約、クラブの「年間最優秀選手」に選ばれるなど、サポーターから最も敬愛される選手となったリンチだが、これほどの大きな舞台での活躍は初めてのことだった。この後、フリートウッド・タウンは12月16日カラバオカップの準々決勝でやはりプレミアリーグのエバートンと対戦するが、少なくとも現時点ではアーセナル戦がリンチにとって「生涯最高の試合」であるのは間違いない。
この夜、スタジアムの北側スタンド下(ホームサポーター側)にあるパブ「ジミーズ・バー」は選手、クラブ役員、サポーターもまじえて超満員の人で遅くまでにぎわい、町のパブもどこも満員になった。そして午前1時を過ぎても2時を過ぎても誰も帰ろうとしなかったという。英国北西部の「忘れられた港町」の人々は、「この勝利が、この町に活気をもたらす大きな始まりになるといい」と、顔を輝かせた。




























