■断崖絶壁の「タダ見」客も、香港ガバメント・スタジアムの狂熱
9月1日、いよいよアジアカップの第1回決勝大会が始まる。大会前の大論争の末、香港の暑さを考慮して試合は40分ハーフ、すなわち80分間となった。ただし、4チーム総当たりのリーグ戦でありながら、同点の場合には30分間(15分ハーフ)の延長戦を行うことになった。
会場は香港が誇る「ガバメント・スタジアム」である。香港島北部、銅鑼湾(コーズウェイベイ)地区の南、掃桿埔(ソコンポ)と呼ばれる谷を利用した当時最新鋭のスタジアムだった(現在は1994年完成の「香港スタジアム」となっている)。隣接する競馬場で起きた火災事故の犠牲者を埋葬した土地だったが、香港政庁は墓地を移転させ、1953年、ここに2万8000人収容のスタジアムをつくった。その完成から3年目、「アジア最新」のスタジアムである。
開幕戦は香港×イスラエル。主審は英国工兵隊の中佐でもあるハロルド・アーサー・シェパード。翌年には軍における功績でOBE(大英帝国勲章)を受けることになる人である。大会の他の5試合は出場3か国(香港、南ベトナム、イスラエル)の審判員が担当し、シェパード中佐が笛を吹いたのは開幕の1試合だけだった。
9月1日土曜日、午後5時45分の試合には、超満員の3万人の熱狂的なファンが集まった。北には銅鑼湾の繁華街を臨むものの、他の三方は高さ100メートルを超す切り立った崖に囲まれたガバメント・スタジアム。屋根のないバックスタンド(東側スタンド)の背後の崖には、何百人、何千人という人が危険を冒して登って居場所を見つけ、「ただ見」を決め込んでいる。ファンの喚声は、周囲の崖に反射し、巨大なパワーとなって選手たちに襲いかかる。
その観客が爆発的な喜びに包まれたのが前半12分。香港警察クラブ所属のMFアウ・チイン(欧志賢)が先制点を決めたのだ。しかしイスラエルはイェホシュア・グレイザーが37分に同点とし、前半を1-1で折り返す。後半、香港は再び欧志賢のゴールで先行するが、イスラエルもナホム・ステルマッハが同点とし、その2分後にグレイザーが逆転ゴールを叩き込んで3-2の勝利をつかんだ。
































