■アメリカを刺激した決勝戦

 1966年、アメリカのサッカー史で忘れてはならない出来事が起こる。この年にイングランドで開催されたワールドカップの決勝戦(イングランド×西ドイツ)が、アメリカ・テレビ放送の「3大ネットワーク」のひとつである「NBC」で全米に生中継されたのだ。といっても当時の衛星放送の技術では完全な「同時中継」ではなく、いくぶんかの遅れはあったものの、ともかく、新聞はもちろん、ニュースでも結果など知らされていない「ほとんど生」のワールドカップ決勝戦に、アメリカの国民が初めて接した試合だった。モノクロの放送ではあったが…。

 これがすごい試合だった。おそらく、ワールドカップ決勝戦の歴史のなかでも1、2に入る名勝負だっただろう。前半12分に相手のクリアミスを拾った西ドイツのFWヘルムート・ハーラーが先制点。しかしわずか6分後、イングランドはキャプテンのDFボビー・ムーアが素早く蹴ったFKをFWジェフ・ハーストがヘディングで決め、試合を振り出しに戻す。

 1-1のまま試合が進み、終盤にかかろうとした後半33分、イングランドは右CKを生かし、ハーストのシュートを西ドイツDFホルスト・ヘッティゲスがブロックしたところをMFマーチン・ピータースが押し込んで勝ち越しゴール。西ドイツは猛然と反撃に出るが、イングランド・ゴールには名GKゴードン・バンクスが立ちふさがる。

 試合はこのままイングランドの初優勝で幕を閉じるのかと思われた。しかし終了直前、残り60秒となったとき、やや左、ゴールから30メートルの距離で西ドイツにFKが与えられる。イングランドDFジャッキー・チャールトンが西ドイツFWウーベ・ゼーラーにのしかかってヘディングしたことを反則とされたのだ。当時としては異常と言えるほど大きかったJ・チャールトンは身長187センチ、一方のゼーラーは身長170センチのセンターフォワードだった。

 蹴るのは西ドイツFWローター・エメレッヒ。得意の左足から強烈なシュートが放たれるが、イングランドDFジョージ・コーエンが反応してブロック。左にこぼれたボールを西ドイツMFジギ・ヘルトが拾って左足シュート。だがボールはゴール前に走り込んでいた西ドイツDFカールハインツ・シュネリンガーの背中に当たってゴールエリア右に転々と転がる。そこに猛然と走り込んできたのが、西ドイツDFウォルフガンク・ウェーバー。スライディングしながら右足で合わせたシュートに、イングランドGKバンクスとDFレイ・ウィルソンがブロックに入るが、シュートはバンクスの指先をかすめてゴールネットに突き刺さった。

(2)へ続く
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