■戦術よりも優先された「スピリットの再生」

 そのことが、もっともよく表れていたのがブライトン戦だった。

 結果だけを見れば、またしても勝てなかった。しかも落胆の度合いは、下手な敗戦以上に大きかった。シャビ・シモンズの鮮やかなゴールで2−1と勝ち越したあとのスタジアムには、「ついに勝てる」という空気が満ちていたからだ。ペドロ・ポロとケヴィン・ダンソが膝をつき、シモンズが今にも泣き出しそうな表情を浮かべた試合後の光景は、その期待がどれほど大きかったかを物語っていた。

 それでも、この日のトッテナムには、従来とは明らかに違うものがあった。サポーターは試合後、選手たちに強烈なブーイングを浴びせなかった。むしろ拍手で迎えた。勝利を逃した悔しさは当然あったはずなのに、それでも彼らは、目の前のチームが少しずつ変わりつつあることを感じ取ったのだろう。

 では、ピッチ上で何が起きていたのか。

 本来のデゼルビは、最終ラインからのビルドアップに強いこだわりを持つ。センターバックとGKを起点に相手のプレスを誘い、前方に引きずり出す。そして細かい立ち位置の調整で数的優位を作りながら前進していく。ブライトン時代に何度も見せた、あの独特の組み立てである。

 しかし、就任直後のトッテナムでは、その色はまだ薄い。デゼルビ自身も会見で、ビルドアップや攻撃の細部に時間を割いていないことを明言している。「原則やビルドアップ、最後の20メートルに時間をかける余裕はない」「選手に混乱を与えたくない」「考えすぎずにプレーさせたい」。そうした言葉が示す通り、彼はいま意図的に情報量を削っている。

 実際、ブライトン戦で目立ったのは、最終ラインでじっくり相手を引きつけるような形ではなく、奪ったあとに素早く縦へつけるプレーだった。前からのプレスで高い位置にボールを奪い、そのままシンプルに前進する。先制点はまさにその象徴で、前半に高い位置でボールを回収し、最後はペドロ・ポロが決めた。中盤ではロドリゴ・ベンタンクールとイヴ・ビスマが土台を作り、前線ではドミニク・ソランケに当てて周囲が反応する。さらに、シモンズには“ポケット”で自由にボールを受けさせ、そこから違いを生ませる。複雑な設計図というより、いまの選手がもっとも迷わず出せる形に整理した印象だ。
 

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