■ハーストの彫刻が並ぶ「高級店」での決起集会

 それは、おそらくデゼルビがこのチームの問題を正確に見抜いているからだろう。いまのトッテナムに足りないのは、新戦術を覚えるための時間ではない。まずは、自分たちはまだ戦えるのだと信じる感覚である。現地報道でも、トッテナム最大の問題は負傷者の多さ以上に、選手たちの自信の崩壊だと繰り返し指摘されている。

 だからこそ、デゼルビは戦術家である前に、いまはまるで父親のように振る舞っている。

 象徴的だったのが、ブライトン戦前に行ったチームディナーだ。舞台はロンドンの中心地、メイフェアにある高級レストラン「Bacchanalia」。メイン料理が40ポンドから130ポンド、日本円にしておよそ8000円から2万5000円前後という店で、内装にはダミアン・ハーストの彫刻まで並ぶ。

 残留争いの渦中にいるクラブの監督が、選手とスタッフをそんな店へ連れ出したのである。しかも、現地報道ではデゼルビ本人がこの食事会を企画し、支払いも負担したと伝えられた。単なる気分転換ではない。負け癖がつき、表情まで曇っていたチームに対し、「もっと話せ」「もっとつながれ」というメッセージを、言葉だけでなく行動で示したのだ。

 実際、デゼルビは会見でも、人間関係やスピリットを戦術より先に置く姿勢を隠していない。「私は人を信じている。スピリットを信じている。戦術の前に、まず人と向き合っている」。この発言は、就任直後の彼の仕事を端的に言い表している。さらにブライトン戦後には、「(試合2日後の)月曜の練習に笑顔で来なければ帰ればいい」「ネガティブな人間を見る時間はない」とまで言い切った。かなり強い言葉だが、それだけトッテナムの空気が重かったということだろう。失敗すればすぐ萎縮し、流れが悪くなるとすぐ諦めそうになる。だからこそ、戦術以前に、まず大人の集団として戦える状態に戻さなければならない。

つづく

(2)へ続く
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